レアアースの用途:米国エネルギー省報告書より
レアアース問題(「レアアース問題について考える」2010年9月26日記事)の続きというか補足情報である。
少し前のことになるが,2010年12月15日,米国エネルギー省はクリーンエネルギー技術に不可欠なレアアースの役割や安定的な調達への取り組みをまとめた報告書「重要資源に関する戦略」を公表した:
Critical Materials Strategy,
U.S. Department of Energy, December 2010 http://www.energy.gov/news/documents/criticalmaterialsstrategy.pdf (PDF 4.47 MB, 171pages)
レアアースに関する報告書としては,今,世界で一番まとまったものではないかと思われる。
目次
第1章 はじめに
第2章 クリーンエネルギー技術における重要資源の用途
第3章 重要資源の需要・供給・価格の歴史的動向
第4章 エネルギー省の情報・研究開発・資金計画
第5章 他省庁の計画
第6章 他国の資源戦略
第7章 需給予測
第8章 臨界性評価
第9章 計画および政策
本記事ではレアアースの用途だけ取り上げる。
報告書の第2章ではクリーンエネルギー分野におけるレアメタルおよびレアアースの用途をまとめているが,コバルトやリチウムといった「レアメタル」を除いた,純粋にレアアースだけの用途を示すと次の表のようになる:
風力発電 |
自動車 |
照明 |
||
磁石 |
磁石 |
バッテリー |
蛍光体 |
|
Y: イットリウム |
● |
|||
La: ランタン | ● |
● |
||
Ce: セリウム |
● |
● |
||
Pr: プラセオジム | ● |
● |
● |
|
Nd: ネオジム |
● |
● |
● |
|
Pm: プロメチウム |
||||
Sm: サマリウム |
● |
● |
||
Eu: ユウロピウム |
● |
|||
Gd: ガドリニウム |
||||
Tb: テルビウム |
● |
|||
Dy: ディスプロシウム |
● |
● |
||
Ho: ホルミウム |
||||
Er: エルビウム |
||||
Tm: ツリウム |
||||
Yb: イッテルビウム |
||||
Lu: ルテチウム |
磁石について
電気自動車やハイブリッド車,また,風力発電にはネオジム鉄ホウ素磁石によるモーターが使われている。電気自動車1台当たりではキロ単位でネオジムが使用されているが,風力発電では1基当たり数百キロ単位のネオジムが必要になるとのこと。もちろん永久磁石にはネオジムだけでなく,プラセオジム,ディスプロシウム,テルビウムが添加されるので,今後,クリーンエネルギー技術が広がるにつれて世界的にこれらのレアアースの取り合いになるだろうという。
ちなみに報告書によると,ネオジム鉄ホウ素磁石の基本特許は日立金属とマグネクエンチ社(中国がバックについている)が握っており,2014年まで両社のライセンスを受けていないメーカーはこの磁石を製造できないのである。つまり中国だけでなく,日本企業もまたアメリカのクリーンエネルギー技術の首根っこを握っているということ。
参考:Nd-Fe-B系焼結磁石に関わる特許およびライセンスに関するお知らせ (2007.4)
照明について
蛍光灯にはランタン,セリウム,ユウロピウム,テルビウム,イットリウムが使われている。白色LEDではランタンやテルビウムが不要になったものの,セリウムやユウロピウムが必要とされている。これらに対して,有機EL(OLED)では全てのレアアースが不要になるということである(ただし,有機ELにはレアメタルのインジウムが必要だということ)。当面は蛍光灯と白色LEDの普及が拡大するだろうから,やはりレアアースの需給は逼迫するだろう。
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