【第37回大佛次郎賞受賞】渡辺京二『黒船前夜』が受賞したそうで
ここ数日、以前に書いた渡辺京二(敬称略)『黒船前夜』の記事(「渡辺京二『黒船前夜 ロシア・アイヌ・日本の三国志』読了」(2010年6月9日))のアクセス数が増加している。おそらく今回同書が第37回大佛次郎賞を受賞したことが関係しているのだろう。
すでに書いたことの繰り返しになるが、同書で初めて知ったことは多い。18世紀後半~19世紀前半のシベリアでは賄賂・性風俗の乱れ・食糧難が常態化していたこと、松前藩は商人国家でアイヌの生活には干渉していなかったこと、ロシアと日本は接触にあたり、お互い礼を尽くして交渉していること、等々。この時代に日露交易が成立していた可能性は十分にあり、もしもそうなっていたらその後の世界史は大きく変化しただろう。
2010年12月21日の朝日新聞に受賞後インタビュー記事が掲載されているが、その中で「近代以前はロシアと日本もお互いの国を尊重するという意識があった」と渡辺京二は語っている。今、日本とロシアとは角をつき合わせるような関係である。歴史的な経緯がそうさせているのだが、別の付き合い方もありえたのだと思う。
この本を読了してから前著『逝きし世の面影』を読んだのだが、渡辺京二の語り口は一貫している。当時の人々の記録を引用し、それらの記録をして当時の様子を語らしめるという手法である。歴史観から出発する演繹的な手法ではなく、証言を積み上げる帰納的な手法である。
ちなみに記録を丹念に積み上げて時代を描き、従来の歴史観を覆すというのは中世史家の網野善彦(故人)を思い起こさせるが、渡辺京二は網野史観には異議を唱える立場である。網野史観では「活力に満ちた中世・抑圧された徳川期」と見る(司馬遼太郎も徳川期に対して似たような評価をしている)が、渡辺京二は徳川期を「一回かぎりの有機的な個性として文明」として高く評価している。網野史観への批判については渡辺京二『日本近世の起源』(洋泉社MC新書)を参照。
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