レアアース問題への対応:米国の場合
ハイテク産業に不可欠な元素であるレアアース(REE)。最大の輸出国である中国が輸出を制限していることに対して先進各国は対応を迫られているが,米国の場合はどうかということについて,Technobahnが報じている:
"Rare Earth Elements in U.S. Not So Rare", (November 24, 2010, Technobahn, nature)
以前,「レアアース問題について考える」(2010年9月26日)という記事で述べたように,1964~1984年の間,世界のレアアースのほとんどはアメリカのマウンテンパス鉱山(Mountain pass)で採掘されていた。つまり,もともとはアメリカがレアアースの中心地だったわけである。
ところが,中国でレアアースの採掘・安売り攻勢が始まり,マウンテンパスは2002年に閉山,中国産レアアースが全世界を席巻することになった(市場占有率97パーセント)。
しかし,今回の中国のレアアース輸出規制を機に,状況は再び変わった。米国内でのレアアース採掘が見直され,米国内の埋蔵量調査が始まったのである。
量でいえば,米国は国産のレアアースで国内需要をまかなうことができるという話。Technobahnの記事の中でUSGSのディレクターはこう言っている:
米国内の需要は年10,000トンあるが,米国内に埋蔵されているレアアースはこの需要を何年でも満たすことができる。(Marcia McNutt, Ph.D.)
米国のレアアース鉱山の候補としては,マウンテンパス鉱山(カリフォルニア)のほか,アラスカのボカン山(Bokan Mountain),ワイオミングのベアロッジ山脈(the Bear Lodge Mountains)などが知られており,他にも全米11州に有力な鉱山の候補があるとTechnobahnの記事が伝えている。
米国の科学者は砂鉱(placer)や燐灰岩(phosphorite)からレアアースを採取する方法についても検討しているというから,さらに米国内でのレアアースの採掘可能性は広がる。
◆ ◆ ◆
で,日本は?という話だが,先日,双日がオーストラリアでレアアースを確保したという話である:
「双日、豪からレアアース 10年間、日本の年間需要の3割を確保」(2010年11月24日, 産経ニュース)
オーストラリアのライナス・コーポレーションの推し進めるレアアース採掘プロジェクト(オーストラリア西部のマウントウェルド鉱山の開発およびマレーシアでの製錬)に参加し,同社からレアアース8500トンを10年間調達するという話(双日のニュースリリース)。
実は,別の情報源によると(参考),ライナスのレアアース採掘プロジェクトには中国企業が出資する予定だったが,オーストラリアの資源保護規制によりそれがパーになったという。今回の双日との提携は,ライナスにとって渡りに船という感じ?
遅ればせながら調達先の多様化が進んでいるようなので一安心というところか?
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