レアアース問題について考える
尖閣諸島問題で話題になったのが、中国のレアアース禁輸措置。中国商務部は否定しているが、本当にやりかねないと思われている。
そこで、今回、レアアースについて調べてみた。
◆ ◆ ◆
レアアースとは何か?
まず、レアアースというのは希土類元素(rare earth elements: REE)のことである。Wikipedia[1]では以下の17元素をレアアースとして取り上げているが、USGS[2]のレポートではスカンジウムを除く16種をレアアースとして挙げている。
原子番号 | 元素記号 | 元素名(日本語) | 元素名(英語) |
---|---|---|---|
21 | Sc | スカンジウム | Scandium |
39 | Y | イットリウム | Yttrium |
57 | La | ランタン | Lanthanum |
58 | Ce | セリウム | Cerium |
59 | Pr | プラセオジム | Praseodymium |
60 | Nd | ネオジム | Neodymium |
61 | Pm | プロメチウム | Promethium |
62 | Sm | サマリウム | Samarium |
63 | Eu | ユウロピウム | Europium |
64 | Gd | ガドリニウム | Gadolinium |
65 | Tb | テルビウム | Terbium |
66 | Dy | ディスプロシウム | Dysprosium |
67 | Ho | ホルミウム | Holmium |
68 | Er | エルビウム | Erbium |
69 | Tm | ツリウム | Thulium |
70 | Yb | イッテルビウム | Ytterbium |
71 | Lu | ルテチウム | Lutetium |
周期表では第III族に属する。ランタンからルテチウムまではランタノイドと呼ばれる。
レアアースと似た言葉にレアメタルというのがある。レアメタルはその名の通り希少金属のことで、経済産業省は次の31種をレアメタルに指定している。
リチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、タリウム、ビスマス、レアアース
リチウムからビスマスまでの30種は元素名である。最後に希土類元素がまとめてレアアースとして挙げられている。
◆ ◆ ◆
レアアースの用途は?
これはマスコミで話題になっているのでご存知のことと思う。ハイテク素材に用いられる。資料[2]にもとづいて各元素の応用例をまとめたものが次の表である。
元素 | 用途 |
---|---|
Eu | CRTディスプレイや液晶ディスプレイには赤色蛍光物質としてユウロピウムが使用されており、代替品は見つかっていない。酸化ユウロピウム(Eu2O3)は1990~2000年の間に1kgあたり250ドルから1700ドルに値上がった。 |
Er | 光ファイバーによる通信にはエルビウム・ドープ・ファイバー増幅器が用いられるが、このエルビウムもまたレアアースである。1kgあたり700ドルする。 |
Ce | 酸化セリウムはレンズ磨きに用いられる。 |
Nd, Sm, Gd, Dy, Pr | 軽くて強力な永久磁石にはネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム、プラセオジムなどが使用される。これらの元素を使用した永久磁石はDVDドライブやさまざまなタイプのモーターに使用される。 |
◆ ◆ ◆
レアアースを含む鉱物は?
レアアースはバストネサイト(バストナサイト)、モナズ石(モナザイト)、ラテライト鉱などから得られる。
カリフォルニアのマウンテンパスで採掘されるバストネサイトはレアアースのうち、セリウムを最も多く含み、あとはランタン、ネオジム、プラセオジムの順にレアアースが含まれる[2]。
中国南部産のラテライト鉱はレアアースのうち、イットリウム、ランタン、ネオジムを多く含む[2]。
◆ ◆ ◆
レアアースを含む鉱物はどこで採れるか?
レアアースは1964~1984年までは主としてアメリカのマウンテンパスで採掘された。1984年以降は中国での採掘が増加し、現在では世界の生産量の9割以上を中国が占めるようになっている。
資料[3]によれば、2007年時点でのレアアースの生産量と埋蔵量は以下のようになっている。
生産量
順位 | 国名 | 生産量[t] | 構成比[%] |
---|---|---|---|
1 | 中国 | 120,000 | 96.8 |
2 | インド | 2,700 | 2.2 |
3 | ブラジル | 730 | 0.6 |
4 | マレーシア | 200 | 0.2 |
- | 世界合計 | 124,000 | 100.0 |
埋蔵量
順位 | 国名 | 埋蔵量[万t] | 構成比[%] |
---|---|---|---|
1 | 中国 | 2,700 | 30.7 |
2 | ロシアほかCIS | 1,900 | 21.6 |
3 | アメリカ | 1,300 | 14.8 |
4 | オーストラリア | 520 | 5.9 |
- | 世界合計 | 8,800 | 100.0 |
ということで、生産量、埋蔵量ともに中国がNo.1である。
採算性の問題から現在、米国ではレアアースをほとんど採掘しておらず、日本と同じく中国からの輸入に頼っている。レアアース輸入における中国の重要性について資料[2]ではこのように述べている:
Availability of Chinese REE to U.S. markets depends on continued stability in China's internal politics and economy, and its relations to other countries.
で、まさしく尖閣諸島問題により、中国がレアアースを外交の道具に使う可能性が示されたわけで、米国も危機を感じていることだろう。再び米国でレアアース採掘がはじまる可能性がある。
採算性の問題があるものの、日本としては中国からの輸入に頼らず、埋蔵量の多いロシア、米国、豪州での採掘・輸入を考える必要があるのではないだろうか?
[1] Wikipedia, 希土類元素, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%8C%E5%9C%9F%E9%A1%9E%E5%85%83%E7%B4%A0
[2] USGS Fact Sheet 087-02, 2002
[3] 世界資源企業年鑑 2008, 編集・発行:シープレス, 発売元:通産資料出版会
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