Greg Egan: Zendegi (The Life) Part Oneのまとめ
いま、グレッグ・イーガンの「ゼンデーギー」(ペルシャ語で「生命・生活」の意味)の読み返し作業を行っている。
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で、いろいろ忘れているので、第1部の内容をここでまとめてみる。第1部は2012年に起こったイランの政変の話。
◆ ◆ ◆
第1章
マーティン、テヘランに向かい、
機内でディジタル化に失敗した80年代POPSを聞く
2012年。オーストラリアのジャーナリスト、マーティン(Martin)がイラン国会(Majlis)の選挙の取材に行く。改革派政党Hazb-e-Haalaa (Party of Now)が支持を広げているが、立候補者が監督者評議会によって失格させられるので、保守派の優位は揺るがないだろうと思われている。
マーティンはテヘランに向かう前に大量のLPレコードコレクション(80年代POPS)をディジタル化した。そのデータをラップトップコンピュータに入れてiTuneを立ち上げて機内で聞いたところ、ディジタル化に失敗していることが判明して憤慨。
第2章
マーティン、ハッサン・ジャバリのスキャンダルを知り、
オマール、その愛人を国外に逃す
イランの選挙では監督者評議会によって改革派候補が軒並み失格させられ、保守派が勝利を収めた。
マーティンとその相棒であるイラン人オマール(Omar)は、イランの権力者で監督者評議会メンバーのハッサン・ジャバリ(Hassan Jabari)の同性愛疑惑を知る。マーティンとオマールはハッサン・ジャバリの愛人であるショクーフ(Shokouh)に接触し、亡命の手助けをする。
第3章
マーティン、フィルドゥーシー広場に行き
市民に広がる改革意識の高まりを知る
マーティンはハッサン・ジャバリのスキャンダルの件をイラン政府機関に問いただすが、無視され続ける。しかし、市民の間にはすでにスキャンダルの情報は広がっていた。
フィルドゥーシー広場には再選挙を求める市民が集まっていた。マーティンと通訳のベフルーズ(Behrouz)は取材を開始する。
第4章
ナシム、カプランの奇異な提案を拒絶し、
ディネッシュ、ビルゲイツ財団から資金を得る
ナシム・ゴレスタニ(Nasim Glestani)は幼い時に母とともにイランから米国に亡命してきた女性科学者である。今はヒト・コネクトーム(神経回路地図)プロジェクト(Human Connectome Project, HCP)で働いている。
ナシムが家でイランの政治情勢を伝えるニュースを観ていたところ、ネイト・カプラン(Nate Caplan)という見知らぬ人物の訪問を受ける。カプランは「HCPが進展したら、自分の神経回路地図を完全コピーしてほしい」という提案をするが、ナシムはカプランを追い返す。
ナシムが勤め先で同僚と昼食をとっていたところ、同僚の一人、ディネッシュが自分のプロジェクト(HETE)に対してビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団から多額の資金を得たことを知らせに来る。ディネッシュはナシムに対して、HCPをやめてHETEに加わらないかと提案するが、ナシムはこれを断る。
第5章
マーティン、マフヌーシュに出会い、
ダリウシュ・アンサリ暗殺される
改革派のデモはイラン全土に広がっていた。
マーティンは通訳のベフルーズとともにイラン国会(Majilis)へと向かう改革派市民のデモ行進を取材する。デモには改革派政党、改革派政党Hazb-e-Haalaa (Party of Now)の党首、ダリウシュ・アンサリが招かれていた。ダリウシュ・アンサリの演説のさなか、ハッサン・ジャバリの失脚の情報が入るが、デモは再選挙を求めて続行される。
そんな中、政府の妨害によってマーティンらの携帯電話は通信不能になる。しかし、デモ行進を誘導する女性、マフヌーシュの携帯電話は機能していた。マーティンがマフヌーシュに問いただすと、その携帯電話はSlightly Smart Systemで動いているという。市民は政府の気付かない通信ネットワークを作り上げていたのだった。
やがて、デモ参加者と政府側民兵組織Basijiとの間で衝突が起こる。マーティンはそこから避難し、オマールの家に向かったが、そこでオマールが行方不明になっていることを知る。そしてその直後にダリウシュ・アンサリが暗殺されたという情報を耳にする。
第6章
ナシム、議会公聴会の中継を観、
HCPへの助成中止を知る
HCPのリーダーであるレッドランドが議会の公聴会に呼び出された。ナシムらは昼食時間に議会の公聴会の中継を観る。
公聴会には独自にBenign Superintelligence Bootstrap Projectと名付けられたプロジェクトを推進している、石油王チャーチランドが招かれていた。チャーチランドのプロジェクトは人工知性が自力で進化し、あらゆる問題を解決するという内容だった。
チャーチランドは、精神病やアルツハイマー解決を目的として、人間が自らの神経回路地図を作成するHCPなど、自らのプロジェクトに比べたらとるに足りない、と主張する。
ナシムは中継を見ながら、政府がHCPへの助成を打ち切ることを感じ取る。
第7章
マーティン、アバダンを訪ね、
ダリウシュの兄弟、クーロシュ・アンサリに会う
マーティンとベフルーズは、トラックの荷台に身をひそめながら移動し、ダリウシュ・アンサリの故郷、アバダンを訪れる。そこで、ダリウシュの兄弟、クーロシュ・アンサリへのインタビューを行い、クーロシュ・アンサリが故人の遺志を継ぐことを知る。
第8章
ナシム、母とともにニュースを観、
イランから亡命してきた過去を振り返る
ナシムは帰宅後、母親とともにイラン情勢を伝えるニュースを観る。そして、イランからシリアを経て米国に亡命した苦難の旅を思い出すのだった。
第9章
マーティン、エヴィン刑務所でオマールと再会し、
イラン市民、ついに改革を成し遂げる
マーティンとベフルーズは改革派市民に取り囲まれたエヴィン刑務所で取材を敢行する。エヴィン刑務所には政治犯、改革派関係者、ジャーナリストたちがとらわれており、改革派市民は彼らを解放しようと考えているのである。
政府はヘリなどで威嚇を続けるが、改革派市民に圧倒され、ついに市民にエヴィン刑務所への侵入を許してしまう。
市民とともにエヴィン刑務所に侵入したマーティンは、囚われていたオマールと再会を果たす。
エヴィン刑務所が市民の手に落ちた時、政府もまた改革に同意し、ついにイランは改革への道筋を歩むことになった。
第10章
ナシムの母、新生イランの経済顧問就任を受諾し、
ナシム、イランへの帰国を決意す
ワシントンで新生イランの次期大統領クーロシュ・アンサリを招いたパーティーが開催される。ナシムとその母はこのパーティーに参加する。
ナシムはこの会場で、ネイト・カプランに再会する。カプランはイラン・アメリカ友好協議会に多額の寄付を行ったので、招待されたのだという。カプランはナシムに対し、以前と同じ提案を行うが、ナシムは再び拒絶する。
ナシムの母はクーロシュ・アンサリから新生イランの経済顧問に就任するよう要請され、これを受諾、イランに帰国することを決意する。
ナシムはHCPで成すべきことは成したと考え、母とともにイランへの帰国を決意する。
◆ ◆ ◆
「イランの現代政治」と「ヒト・コネクトーム」という、どちらか1つだけでも小説が書けるホットな話題を2つも使い、それが第2部で結合するという、とても豪華な小説である。
あと、マーティンがLPレコードのディジタル化に失敗したり、ナシムがフェムトブログサービスとGoogle Mapsによってカプランに所在を知られてしまったり、イラン市民が情報伝達に赤外線通信(IR)を利用したり、とか技術的な小ネタが惜しげもなく満載されているのは、やはりグレッグ・イーガンならではである。
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