折口信夫(おりくち・しのぶ)の『口ぶえ』を読んだ
折口信夫(おりくち・しのぶ)の代表作『死者の書』に続いて、今度は『口ぶえ』を読んだ。これは過去1回、旧版・折口信夫全集(中公文庫)で読んだので、今回は2回目である。
やはり、現代仮名遣いになっていると読みやすい。
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<『口ぶえ』のあらすじ>
漆間安良(うるま・やすら)は大阪の百済中学校の3年生である(15歳(数え年?))。汗っかきのアンニュイな少年。いつもここに心あらず、といった様子で、勉強には身が入らない。上級生からは同性愛の対象として狙われているらしく、とくに岡沢という5年生(18~9歳)からは強く迫られている。安良自身は同級生の渥美泰造(あつみ・たいぞう)に思いを寄せている。
8月の下旬、安良は岡沢と渥美の両方から手紙を受け取る。岡沢は富士登山の途上、渥美は京都の山寺から手紙を送ってきたのであった。安良は渥美を清らかな存在、岡沢や自分を醜い存在とみなし、自らには岡沢の方が似つかわしいのではないかと煩悶する。その煩悶の揚句、安良は渥美が滞在している京都の山寺に向かうことにする。
安良が京都・西山の山寺に到着した晩、寺の一室で安良と渥美は枕を並べて寝る。渥美は安良に突如、こんなことを言う:
「みんな大人の人が死なれん死なれんいいますけれど、わては死ぬくらいなことはなんでもないこっちゃ思います。死ぬことはどうもないけど、一人でええ、だれぞ知っててくれて、いつまでも可愛相やおもててくれとる人が一人でもあったら、今でもその人の前で死ぬ思いますがな、そやないとなんぼなんでも淋しいてな」
安良は即答しなかったが、渥美との心中について考える。
翌日午後、川遊びを終えた安良と渥美は急に思い立ち、「釈迦ヶ嶽(しゃかがたけ)」を目指していちずに歩き始める。黄昏時、釈迦ヶ嶽の頂に到着した二人は心中を心に決め、崖から身を乗り出す。
◆ ◆ ◆
折口信夫は15歳のときと16歳のときの2回、自殺を試みて失敗している。『口ぶえ』はその年頃の折口信夫自身の心境を克明に再現しようとした作品なのだろうと思う。だからであろう、安良の心理の描写は生々しく痛々しい。
上述のあらすじに書いたように、この作品の中で折口信夫は渥美に「みんな大人の人が死なれん・・・そやないとなんぼなんでも淋しいてな」と語らせているが、この強烈なセリフは折口信夫自身が終生抱き続けた気持ちであろうと思う。
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