梅棹忠夫、死んじゃった
梅棹忠夫先生、老衰のため死去:
「訃報 梅棹忠夫さん90歳=文化人類学『文明の生態史観』」(毎日新聞、2010年7月6日)
世の中的には、NHKが大相撲名古屋場所の中継をしない、というニュースの方が大きいんだろうけど、小生としては、こっちの方が大きい。
「文明の生態史観序説」は有名な論文で、「西洋と東洋」という枠組みを崩し、「第一地域と第二地域」という新たな枠組みを提示した。当時は大きな論争を巻き起こしたようである。
東南アジアとかアフリカとか米大陸とかの文明の多様性がわかってきた現在から見ると、足りないところの多い説(「第一地域・第二地域」だけじゃ説明不可能)だと思うので、小生としてはあまり評価していない。
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梅棹先生の有名な著書としては、『知的生産の技術』(岩波新書、1969年)があるけど、あのカード式の知識整理術は、本当に実行するとえらいことになる。
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『行為と妄想-私の履歴書』は、生い立ちに始まって、世界各地における探検調査、民博の設立、失明後の日々まで、梅棹先生のほぼ全生涯がカバーされていて面白い本である。
とくに面白いのは、探検の世界やジャーナリズムの世界では脚光を浴びていたものの、1949年から1965年まで勤めた大阪市立大学では、一介の助教授として退屈な日々を送っていたという話。本当に授業が嫌いだったようである。市大では一般教養の生物学を担当していて、黒板に古生物の絵とラテン語の学名を書いていたところ、学生たちからは「漫画と語学の授業」と嘲られていたとか。
ちなみに梅棹先生はイラストが上手。『行為と妄想-私の履歴書』の表紙の絵はこの人の描いたもの。
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梅棹先生は世界各地を回ったが、フィールドワークで必要に迫られて、数多くの言葉を学んだという。その体験が綴られているのが、『実戦・世界言語紀行』(岩波新書)。
数週間から数ヶ月でだいたい言語をマスターしたものの、用が済んだらすぐ頭から消えていったと言う話。言語学を趣味としていたのではなく、言語を単なる道具として使っていたという姿勢がよくわかる。
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小生がこの人の著書で一番面白いと思ったのは、一番最初の著書であろう、『モゴール族探検記』(岩波新書、1956年)である。
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現在でも秘境みたいなもんだが、当時はもっと凄い秘境だったアフガニスタンに入って、モンゴル系民族である「モゴール族」を探したときの記録である。当時は京都大学学術探検隊の黄金時代。一緒に探検した山崎忠氏は本を書き上げる前に亡くなってしまったという悲しいエピソードも記されている。
今日はまた何冊か読み返してみようかと。
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