【科学史研究】知的財産権史略
「科学史研究」のバックナンバーを整理しているのだが、こういう作業をしていると結局中身を読んでしまうのである。
以下は
名和小太郎、科学史入門:知的財産権と技術発展(科学史研究、45巻(2006)、pp.241-244)の内容に関するメモ:
古代・中世の知的財産権
- 古代ギリシャ
- 発意者の特権
- 剽窃の禁止: 著作の盗用には破廉恥罪を適用
- 中世ヨーロッパ
- 「知的な生産行為は超越的な存在を模倣すること」
- 「知的生産に関する個人的な寄与は意識されなかった」
- 著作者に権利はなく、著作物に価値がある->著作物を集積している者(教会、大学)に権力が発生
前近代ヨーロッパの知的財産権
- 新技術導入のための特許制度
- 英国では14世紀から移住した職人に発明と事業化の特許状を発行
- 特許状を"letters patent"(開封特許状)と呼んだ->"patent"の語源
- 出版特許は出版組合の利益保護のため(著作者保護にあらず)
近代欧米の知的財産権
- 1709年、英国で著作権法制定:出版社のほか、著作者にも権利
- 1788年、合衆国憲法に知的財産権の保護を定める
- 1790年、米国で特許法(発明家、企業家へのインセンティブ)と著作権法を制定
- 1884年、パリ条約(特許制度)、ジーメンスが推進
- 1886年、ベルヌ条約(著作権制度)、ユゴーが推進
特許制度の枠組み
- 公示主義: 発明内容(明細書)の登録と公開
- 審査主義: 発明内容の品質を保つため審査を行う
- もともと製造業の発明を想定していたが、20世紀以降保護範囲が拡張(とくに米国)
- 生命分野: 醗酵など微生物による生産方法、植物、遺伝子操作、医療行為、DNA配列
- 情報分野: ソフトウェア、アルゴリズム、ビジネスモデル
著作権制度の枠組み
- 無方式主義: 創作されたら権利発生
- 複製技術への対応: WIPO著作権条約
- 著作隣接権の新設: 演奏家、放送事業者、レコード製作者、データベース事業者の権利
特許制度の性質の変化
- 19世紀まで: 「技術の後進国が先進国の技術を導入するための道具」
- 20世紀後半から: 「技術の先進国が世界市場を制覇するための武器」->米国のプロパテント政策
反・知的財産権
- 公序良俗論: 生命技術に対する特許付与への反発
- オープンアクセス論: オープンソース運動(プログラムの公有化運動)、オープンジャーナル
- 商業出版による寡占化: 学術雑誌のエンクロージャー
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