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2010.04.13

【書評】宮武久佳『知的財産と創造性』(みすず書房)を読んでみた

随分前に購入したまま放置していた本を読んでみた。

宮武久佳『知的財産と創造性』(みすず書房、2007年1月)

知的財産と創造性知的財産と創造性

みすず書房 2007-01-11
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本のタイトルに「知的財産」とあるが、この本が取り扱っているのは主として著作権である。産業財産権である特許や商標には12章あるうちの1章ずつがあてられている程度である。だからタイトルとしては『著作権と創造性』というほうが良いのではないかと思う。

この本では、デジタル化の進展に伴って著作権が身近な問題となっていること、そのことを具体例によってわかりやすく紹介している。例えばこんな感じ。

ある人が書店で本の一ページをデジカメで撮影した場合、つまり「デジタル万引き」をした場合、この人を窃盗罪に問うことも著作権の侵害として訴えることも難しい。

なぜなら窃盗罪は有体物に対して適用するものであって、本の内容のような無体物の持ち出しに対して適用することはできないからだ。また、著作権に関しては「私的使用」条項という抜け道があって、複製した内容を私的に使用する場合には罪に問えないのである(「第3章 著作権法は時代遅れか」参照)。

著者はこのような例を持ち出して現行の著作権の限界を指摘する。ただし、今後の著作権はこうあるべし、というような性急な結論は導かない。「デジタル時代にふさわしい法体系の構築が必要なのではないか」(本書51ページ)という控えめな問いかけにとどめている。

著作権=コピーライトというのはコピー=複製をコントロールする権利のことである(本書56ページ参照)。そしてその権利は誰に帰属するかというと著作者=クリエイターに帰属する。

ここで面白いのが、パンフレットの著作権は印刷屋、記念写真の著作権は写真屋に属するという話である(第4章 創作する人とお金を出す人)。

だから依頼人が印刷屋に無断でパンフレットを複写機で増刷したり、あるいは写真館で撮ってもらった家族写真を年賀はがきに流用したり、ということは著作権の侵害になる。

これは複製技術が一般の人々の手になかった時代には起こりえなかった事態である。かつては一般の人がパンフレットを増刷しようとすれば印刷屋に頼むしかなかったし、年賀はがきに家族写真を載せようとすれば、写真屋に頼むしかなかった。つまり著作者が複製技術を独占していたので、著作権の問題は発生しなかったのである。

しかし、デジタル化の浸透によって事態は一変する。一般の人が複製を行うことが可能になった一方で、著作権に対する意識は浸透していないままである。著作権の侵害は日常茶飯事となった。

著者は「日本社会は、あうんの呼吸に頼りすぎて『契約』に疎い面がある」(本書67ページ)。「お客は、もっと著作権ルールへの関心を持つべきではないだろうか」(本書68ページ)と、この章を結んでいる。

以上、2つの例を示したが、他のネタも非常に面白い。本記事の読者諸兄も機会があれば、この本を実際に読んでみると良い。

さて、最後にこの本の論述のスタイルについて述べよう。著者の宮武久佳氏は共同通信社の人である。本書の各章では著作権に関する具体的な問題が取り上げられ、整理され、最後に読者への(著者自身への)問いかけが行われる(各章の多くは「だろうか」という疑問で閉じられる)。

この論述スタイルは典型的なジャーナリストのスタイルである。「かくあるべし」というような決め付けをしないこのスタイルは、現在進行形の問題(デジタル化時代の著作権)に対して最もふさわしいものであると思う。

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