室伏広治博士、機械学会誌に寄稿す
随分前に、ハンマー投げの第一人者、室伏広治氏が博士号を取得したという記事を書いた:
「室伏博士」(2007年7月4日)
で、今日、日本機械学会誌2010年2月号をぱらぱらとめくっていたら、室伏博士(と日本スポーツ振興センターの太田憲氏)による「ハンマー投げの力学と新しいトレーニング方法の開発」という解説記事が出ていた。
室伏博士らは「サイバネティック・トレーニング」なるトレーニング手法を提唱しているのだそうだ。引用しつつ要約するとこんな感じ:
- 身体と道具のダイナミクスを「完全に記述し最適な運動を計算できたとしても、選手やコーチにスキルとして伝達することは容易ではない」
- また、「コーチは主として言語によって技術を伝達・伝承するが、選手とコーチ間に共通感覚や経験がない場合に新しい技術を伝達することは困難なことがある」
- そこで、「言語による伝達ではなく、運動中に感覚情報としてスキルに関係する情報をフィードバック情報として選手に与えるトレーニングシステム」としてのサイバネティック・トレーニングが必要になる
例えば、ある選手がハンマーを回転させているときに、その力学的情報を筋肉への電気的刺激や聴覚への音情報としてその選手に伝えながらスキルを習得させるのだと言う。
機械工学分野って、社会的需要はある(つまり、学生に対する求人は不景気でも全く減らない)ものの、学問的には面白いネタがなくて沈滞気味(優秀な学生が集まらず、また、その結果として新しい世代の学者が育たない状況)なのだが、こういうネタがあると学生も研究者も集まるかもね。
ちなみに室伏広治博士の論文はSports Biomechanicsに掲載されていた:
Koji Murofushi, Shinji Sakurai, Koji Umegaki, Junji Takamatsu: Hammer acceleration due to thrower and hammer movement patterns, Sports Biomechanics, Volume 6, Issue 3 September 2007 , pages 301 - 314
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コメント
三菱重工さんの冷凍機の磁気軸受の技術は温暖化防止に対する取り組みとして大変感銘しました。しかし、磁気軸受って耐荷重能が低いんだよね。巨大な風力発電なんかの重要なエネルギー変換源に使われるにはまだ難点がありそうだ。しかしそういった困難を解決しているのが、日立金属のSLD-MAGIC(S-MAGIC)という工具鋼だ。この材料は表面でオイルをトライボケミカル反応させて形成されたボールベアリング状のナノ結晶体で分子物理学的に摩擦係数を下げるという。これなら応用範囲が広そうだ。
投稿: グリーン軸受屋 | 2013.10.01 00:06