『海の帝国』第2章「ブギス人の海」
『海の帝国』第2章「ブギス人の海」で語られるのは、東南アジアにおける政治経済システム:マンダラシステムの破壊である。この章では東南アジア史研究者であるオリバー・ウォルタース(Oliver W. Wolters, 1915-2000)の説に基づいてマンダラシステムが説明されている。
マンダラシステムというのは仏教画の曼荼羅にたとえた東南アジア独特の支配のシステムである。東南アジアにはムアンとかヌガラとか呼ばれる無数の小王国(といっても村ぐらい)が存在する。この小王国はいわば小マンダラと呼ばれる。小王国の王様たちが、自分たちの間で実力のある王をリーダーとして担ぎ上げる。この王様(地域リーダー)と小国王たちとの間で成立する主従関係が中マンダラ。地域リーダーの中でも実力のあるものが登場すると、それが大王になり、中マンダラと主従関係を結ぶ。これが大マンダラ。
マンダラシステムの特徴は、王様たちの力関係が変化して各王国の地位が浮沈することがあっても、基本的には滅亡しないことである。「併合」という考えが無い。
マンダラにはさらに海のマンダラと陸のマンダラがある。海のマンダラは港町を中心とする貿易主体のマンダラであり、陸のマンダラは農村を中心とする農耕主体のマンダラである。海のマンダラと陸のマンダラの間の力関係は、中国の王朝の貿易政策に左右される。
中国の王朝が朝貢貿易政策を採る場合、朝貢によって公認された海のマンダラが栄える。しかし、中国の王朝が海禁政策(鎖国政策)を採る場合、私貿易が盛んになり、公認された港を持つ海のマンダラの独占体制が崩れ、陸のマンダラも貿易に参加できるようになる。この場合、もともと地力のある陸のマンダラが優位になる。
このような海陸のマンダラの浮沈というか消長が東南アジアにおける歴史のリズムを生み出しているというのがウォルタースの説。
このリズムをぶっ壊したのが、16世紀にマラッカを占領したポルトガルであり、その後を引き継いだオランダであると本書では述べられている。18世紀始め、ブギス人の活動はこの海域で繁盛を極めていたものの、それはマンダラシステム崩壊による混乱の産物であったようである。そのためナポレオン戦争後、ジャワがオランダに返還されてみると、ブギス人にはマンダラシステムの覇権を握ることが出来ないことが判明、結局ラッフルズの構想による自由貿易システム=新マンダラシステムは成立しなかった。
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コメント
ご無沙汰しております。
相変わらず、上手い時間の使い方をされておりますね。
私の方は、毎日毎日・・・「指導指導指導指導∞」・・・と、飽きてきました。
私の方は、趣味(だった)ゴルフと縁遠くなり・・・SRWシリーズも積みゲーム状態です。
据置ゲーム機の反オリジナルのスパロボのみ(スーパーロボット大戦Zなど)をやっていく予定なのに・・・それすらもままなりません。
というわけで、半身浴と移動中の読書(学術書、小説、漫画etc)とCD三昧でのみ鬱憤をはらしております。
春以降、飲み会も1回しか行ってないなぁ・・・
『海の帝国』は、魔境殺神事件/半村良や 海皇紀/川原正敏 を思いださせる歴史物ですね。
というか、『海の帝国』がヒントだったのかな。
投稿: 娘が堀北真希だったらなぁ・・・ | 2009.07.10 11:41
ご無沙汰です。
いや、べつに時間の使い方うまくないですよ。最近はEU3のせいで寝不足。意志の脆弱さを露呈しています。
当方も飲み会減っています。おかげで分解酵素が減ったらしく、少し多目に飲むとベロベロ
投稿: fukunan | 2009.07.10 12:38