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2009.05.07

グリーン・ニューディール(環境・エネルギー)政策にいろいろコメントしてみる

オバマ大統領は2009年3月19日の演説の中でこのようなことを言っている:

So we have a choice to make. We can remain one of the world's leading importers of foreign oil, or we can make the investments that would allow us to become the world's leading exporter of renewable energy. We can let climate change continue to go unchecked, or we can help stop it. We can let the jobs of tomorrow be created abroad, or we can create those jobs right here in America and lay the foundation for lasting prosperity.
<要約>私たちは、「石油の輸入国であり続けるか、再生可能エネルギーの輸出国となるための投資をするべきか」、「気候変動を放置し続けるか、それを食い止めるか」、「環境・エネルギーに関する仕事を外国に奪われるか、アメリカ国内でその仕事を創出し、繁栄継続の基礎を築くのか」という選択を迫られている。

このような大統領の意思にもとづき、ホワイトハウスは環境・エネルギー政策のアジェンダをまとめている。以下紹介しつつ小生がコメントしてみる:

【環境・エネルギー投資】 「2009年米国再生再投資法」(American Recovery and Reinvestment Act of 2009)にもとづき、以下に示すように計600億ドルの環境・エネルギー投資が行われる。
  1. 田舎で生産された再生可能エネルギーを都市部に送る電力網の構築、および4000万世帯への「スマートな」電力計の普及のために110億ドル
  2. 低所得者層のhome weatherizationのために50億ドル
  3. 連邦政府関連機関において省エネルギーを推進するために45億ドル。これによって納税者は数十億ドルを節約できる
  4. 再生可能エネルギーの促進とエネルギー効率の向上のために63億ドル
  5. 環境・エネルギー関連の職業訓練のために6億ドル
  6. エネルギー保存用の次世代バッテリー開発のために20億ドル

2番目に出てきたhome weatherizationというのは、日射をさえぎったり断熱したりという、住宅のパッシブな環境制御のことである。"efficiency gap"という言葉がある。豊かな人々は高効率な住宅(イニシャルコスト高)に住むため、エネルギー消費が少なくて済む(ランニングコスト低)が、貧しい人々は省エネ性能の悪い住宅(イニシャルコスト低)に住むため、エネルギー消費が多くなったり(ランニングコスト高)、あるいは我慢して劣悪な環境で過ごす、ということである。この現象に関しては小生の解説記事「【エコマーケティング】Dillman-Rosa-Dillman説の紹介」を参照されたい。

6番目のバッテリーは実は重大な問題である。再生可能エネルギーのうち、風力発電、太陽光発電は既に実用化されており、今後も期待が集まっているエネルギー源だが、生産したら即、消費しなくてはいけないことに問題がある。バッテリーがあれば大丈夫だと思うかもしれないが、大量の電力を高効率で長期に保存できるバッテリーというのはまだ無い(あるいは凄く高価)。風力、太陽光の普及のネックの一つは良いバッテリーがないことである。

【燃費向上】 ドライバーたちの支出を抑制し、メーカーのイノベーションを刺激するため、少なくとも10年以上にわたって自動車およびトラックの燃費の基準を引き上げつづける。

アメリカでは2007年6月21日に「エネルギー自立・安全保障法」が成立し、2020年までに、自動車の燃費基準を1ガロン当たり25マイルから、35マイルへと引き上げることが定められている。25マイル/ガロン=10.6km/L、35マイル/ガロン=14.9km/Lである。

日本国内の燃費目標基準値は自動車交通局が公開している:「燃費基準値一覧」

これによると、例えば車両重量1266~1515kgぐらいのガソリン乗用車の場合、2010年度の目標値は13km/Lである。平成20年3月の自動車燃費一覧から適当に車を選んで調べて目標値と比べてみよう。トヨタのプリウスDAA-NHW20はこのクラスだが、燃費は30.0km/Lで軽くクリア。やはり凄い。日産のティーダDBA-NC11もこのクラスだが、14.8km/Lで目標値をクリアしている。というかティーダはすでに米国の2020年基準にほぼ達している。性能悪いぞアメ車、10年先行しているぞ日本車、ということである。

【エネルギー効率向上】 家電機器のエネルギー消費効率を引き上げる。これにより、今後30年以上にわたって、毎年、全米の石炭火力発電所が生み出すエネルギーの倍の量のエネルギーを節約できる。
【再生可能エネルギー】 連邦大陸棚(outer continental shelf)上での風力、波力、海流発電を可能にするプロジェクトを推進する。

連邦大陸棚というのは連邦政府が管轄する大陸棚のことである。詳しくはJOGMECの用語辞典を参照。海上風力発電は陸上風力発電に比べると障害物が無いことから安定的に高効率で発電することができ、有利である。デンマークでは重要な電力源になっている。しかし、米国の場合(日本でもそうだが)、台風(というかハリケーンか)が来ることによって被害を受けやすく心配である。波力は日本では昔からチャレンジされているが、いまのところ航路標識ブイの電源として実用化されている程度である。海流は・・・どうだろう?海流のエネルギーを奪うぐらい発電したら、気象に影響が出て問題がおこるが・・・。

【環境・エネルギー関連事業への投資】 米国内で環境・エネルギー関連事業を振興し、雇用を促進する。また、次世代エネルギー技術の研究開発に10年間で1500億ドルを投資する。

『平成20年版 科学技術白書』によると米国の2008年度科学技術予算はNSF:60.32億ドル、DOE(エネルギー省)科学局:40.45億ドル、NIST:5.15億ドル、計約106億ドル(NASA、NIH、国防予算除く)である。次世代エネルギー技術開発に1500億ドル/10年=150億ドル/年だから、NSF+DOE+NISTの予算額よりも大きい額が毎年投入されることになる。アメリカはなんでもスケールが大きい。で、財源は?

【石油依存からの脱却】 エネルギー安全保障上の観点から、石油依存からの脱却を図る:
  1. 石油依存から脱却できような次世代自動車ならびに次世代燃料の開発を推進する
  2. エネルギー供給企業に対し、米国内の再生可能エネルギー、化石燃料、バイオ燃料、原子力の開発を進めさせ、安定供給を図らせる
  3. あらゆる分野でエネルギー効率を向上させための投資を促進する。

日本はすでにやっているが、アメリカもようやく石油依存からの脱却を決心した様子。

【二酸化炭素排出の抑制】
  1. 市場原理を利用した二酸化炭素排出規制により、海外の石油への依存と米国内での化石燃料利用を抑制し、米国内における新たな産業を振興する
  2. 二酸化炭素排出抑制によって、結果的に歳入が増加し、米国民に利益が還元される
  3. 二酸化炭素排出に務めることにより、米国産業のレベルを保ち、国際競争力を高める

小生が「市場原理を利用した二酸化炭素排出規制」と訳した部分は原文では"stemming carbon pollution through a market-based cap"である。要するに二酸化炭素排出権取引のことだろう。

市場メカニズム利用っていうのはいかがなものか、というのが小生の認識。日経・JBIC排出量取引参考気配を見ると、今日(2009年5月7日)の値は1575.9円/t-CO2である。2008年7月14日には3821.5円/t-CO2の最高値をつけていたのだが、金融危機の影響(多分)で2009年2月16日には1015.9円/t-CO2(約4分の1)まで値を下げた。現在はだいぶ持ち直しているといえるだろうが、また何かの拍子に下落するのでは、と思う。市場メカニズム頼りというのは危ないのではなかろうか。

小生としてはつっこみどころを見出してしまうグリーン・ニューディール政策であるが、不況脱出策として世界的に大きな流れとなっている。成功すれば地球にも人類にも良い結果をもたらす。

金融・証券の世界でもこの潮流に対する好反応が見られる。日興グリーン・ニューディール・ファンド
なんかバカ売れの様子である。

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