【生産財マーケティング】化学産業における新製品の成功に関して
以前、論文の解説をすることで忘却に対する抵抗運動を始めたいと宣言し、あるエコマーケティング論文を紹介したが、今回は生産財マーケティングに関する論文を紹介する。
マーケティングというよりは商品開発の範疇だと思うが、両者の境界が良くわからないのでまあいいや。
Robert G. Cooper, Elko J. Kleinschmidt, New-Product Success in the Chemical Industry, Industrial Marketing Management, Vol. 22, pp.88-99, 1993
この論文で、CooperとKleinschmidtは4カ国(米国、英国、カナダ、ドイツ)21社の103の新製品開発プロジェクトに関して企業関係者へのアンケート調査を行い、その成功・失敗要因についてまとめている。21社にはDuPont, Exxon Chemicals, Dow, ICI, Shell Chemicals-UK, Rohm & Haasといった大手が含まれている。
新製品の成功/失敗の判定は2種類の手法で行われている。一つは収益性、技術的成功、年間総売上高、マーケットシェアなどについて0から10で点数化。もう一つは単純に成功か失敗か二者択一で判断するものである。
成功/失敗と様々な評価指標との関係
103プロジェクトのうち、3分の2はうまくいっていると判定されている。そして成功した製品の発売3年後の年間売上高は平均800万ドル、失敗した製品のそれは80万ドルということである。
マーケットシェアに関して言えば、成功製品は次位のライバル製品に対して平均4.95倍のシェアを持ち、失敗製品は首位のライバル製品に対して平均0.60倍のシェアであるということが述べられている。
技術的成功の判定を-5~5点のスケールで判定すると、成功製品は平均3.47点、失敗製品は平均0.8点となっている。
製品成功のための6大要因
CooperとKleinschmidtは調査結果をもとに6つの成功要因をまとめている。
- アイディアの源泉
- 顧客からアイディアを得ること(Market-pull)
- 技術主導(Technology-push)型は凶、同業他社から得るのは大凶
- もしも技術主導型でプロジェクトが始まったら、早い段階で市場のニーズと照合すること
- 顧客からアイディアを得ること(Market-pull)
- 早期の製品定義
- ターゲット市場、製品コンセプト、ポジショニング、製品の必要性、想定利益などが開発段階よりも前に健闘されていること
- ターゲット市場、製品コンセプト、ポジショニング、製品の必要性、想定利益などが開発段階よりも前に健闘されていること
- 適切な製品開発プロセス
- 市場調査、パイロット生産、pre-commercialization、試験販売など、必要な作業をサボらずきちんと行うこと
- 失敗したプロジェクトではこれらを省略していることが多い
- 市場調査、パイロット生産、pre-commercialization、試験販売など、必要な作業をサボらずきちんと行うこと
- 適切な製品開発組織
- 必要な権限を持つリーダーが率いること
- アイディア段階から出荷まで、他の組織に委譲することなく製品の面倒を見ること
- 必要な権限を持つリーダーが率いること
- 国際性
- 化学製品(生産財)なんだから世界市場を目指さなくてはいけない
- 国内向けではダメ
- 国内および隣接した国々向けではなおさらダメ
- 化学製品(生産財)なんだから世界市場を目指さなくてはいけない
- 出荷時のエフォート
- カスタマーサービスとテクニカルサポート
- 営業部隊の能力
- 納期と量の信頼性
- カスタマーサービスとテクニカルサポート
アイディアの源泉と国際性に関しては以下、補足しておく。
アイディアの源泉
各プロジェクトの製品アイディアの源泉がどこにあるかについてこの論文では次の表のようにまとめている:
全プロジェクト | 成功製品 | 失敗製品 | |
---|---|---|---|
社内技術 | 39.8 | 38.2 | 42.9 |
顧客 | 29.1 | 33.8 | 20 |
ライバル企業 | 21.3 | 19.1 | 25.7 |
取引先 | 6.8 | 8.8 | 2.9 |
その他 | 2.9 | 0 | 8.6 |
この表の単位は[%]である。「全プロジェクト」の列は全103プロジェクトのアイディアの源泉の割合を表している。製品アイディアの源泉の1位は社内技術、2位は顧客であることがわかる。
このほか、「成功製品」の列は成功製品のアイディアの源泉の割合を、「失敗製品」の列は失敗製品のアイディアの源泉の比率を表している。
アイディアの源泉別に成功率を調べると次の表のようになる:
成功率 | |
---|---|
社内技術 | 63.4 |
顧客 | 76.7 |
ライバル企業 | 59.1 |
取引先 | 85.7 |
その他 | - |
これをみると、顧客からアイディアを得る場合に成功率が高いことがわかる。取引企業からアイディアを得る場合も成功率が高いが、データが少ないため統計的には有意ではなかったということだ。
国際性
ターゲット市場別に成功率をまとめたのが次の表である:
成功率 | |
---|---|
国内市場のみ | 65.5 |
国内および近隣諸国 | 54.2 |
産業国 | 66.7 |
世界市場 | 78.6 |
世界市場を目指すことが圧倒的に成功率が高いことがわかる。あと、中途半端に近隣諸国を狙うのはダメなようだ。
| 固定リンク
「アカデミック」カテゴリの記事
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
- データ主導時代に抗して(2023.11.08)
- モンゴル語の"Л (L)"の発音(2022.11.18)
- 『学術出版の来た道』を読む(2021.12.10)
- Proton sea | 陽子の海(2021.06.03)
コメント