デフォルト・ポリシーの重要性: Importance of default policies for products and services
Harvard Business Reviewにデフォルト・ポリシー(default policy)の重要性を訴える記事が載っていたので紹介:
Daniel G. Goldstein, Eric J. Johnson, Andreas Herrmann, Mark Heitmann: Nudge your customers toward better choices, Harvard Business Review, December 2008, pp. 99 - 105
製品やサービスのデフォルト設定にはしかるべきポリシーが必要だという話。パソコンとかソフトウェアとかを購入すると、デフォルト設定のせいで結構悩まされることが多い。当たり前といえば当たり前の話であるが、この記事では考え方が良く整理されている。いずれ日本語版に訳されるだろうから(商売の邪魔をしたらいけないから)、ここでは要約というかメモを記述するだけに留める。
デフォルト設定に対する考え方がいい加減だと、ユーザから猛反発を受けることがある。この記事によるとSNSのFacebookが2007年にデフォルト設定で、ユーザの購入品を表示するようにしたら、「プライバシーを侵害するな!」と猛反発を受けたという。
一方でデフォルト設定は余分な経費をかけずにユーザを誘導するのにも使える。というのも多くのユーザは心理的惰性で製品やサービスをデフォルト設定のまま放置することが多いからである。例としてこの記事では臓器ドナー登録の話を挙げている。ドイツではドナー登録は市民が自主的に行うものとなっているが、12%のドイツ市民のみがドナー登録をしている。これに対しオーストリアでは全市民が初めからドナー登録されている。もちろん、登録解除は自由にできるのだが、99.98%のオーストリア市民がドナー登録を保持している。
この記事ではデフォルト・ポリシーを類型化しており、各企業はそれらの中から製品・サービスに応じたポリシーを選択すれば良い。デフォルト・ポリシーの類型は以下の通り。選択の仕方(decision tree)については同記事を読まれたし。
- Benign defaults 優しいデフォルト設定:企業がユーザにとって最も良いと(使いやすいとか便利とか)判断した設定
- Hidden options 選択肢の秘匿:他にも選択肢があるにもかかわらず、コスト的判断により、デフォルト設定が唯一のオプションであるかのように見せる方法。 飛行機などの食事では「ビーフかチキンか」以外にも隠しメニューがあるが、明示しておくといろいろと面倒なので、2つしか選択肢が無いかのように見せている。
- Random defaults ランダム・デフォルト設定:これはマーケティング手法である。何種類かのデフォルト設定をしておき、ユーザーが最初の設定からあとでどのように設定を変えていったのかを調べることによって、ユーザの嗜好を知るのである。
- Smart defaults ユーザの嗜好にもとづいてデフォルト設定を行うこと
- Persistent defaults ユーザの過去の選択傾向にもとづいてデフォルト設定を行うこと
- Adaptive defaults ユーザーの最新の選択傾向にもとづいてデフォルト設定を行うこと
Persistent defaultsやAdaptive defaultsはインターネットでの本の購入や航空機・ホテル予約などでよく応用されている。禁煙ルームを良く選択するユーザが、新たにホテル予約をする場合、企業側はあらかじめ禁煙ルームのオプションを選んでおくわけである。PersistentとAdaptiveの違いは準静的(持続的)か動的(変動的)かという程度の違いに過ぎないと小生は思う。
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