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2009.01.21

【経済学?】「市場(スーク)の中の女の子」読了

図書館の経済学の棚にこんなものが入っていたので借りてみた。2時間ぐらいで読了。

市場(スーク)の中の女の子市場(スーク)の中の女の子
スドウ ピウ

PHP研究所 2004-10-21
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文は経済学者の松井彰彦、絵はスドウピウ。

サブタイトルは「市場の経済学・文化の経済学」であるが、固い本ではなく、「路香(みちか)」という女の子を主人公としたファンタジーである。市場と文化の関係を分析する経済学の入門書ということだろうと思う。

各章の扉に引用された語句、そして内容を以下に示す。

「無知は死んだ」(『マリアによる福音書』)

第1章 図書館
「書棚の間を行く散策は、およそ散策のうち、最も楽しく、最も快いものです!」(千夜一夜物語)
主人公、路香(みちか)は経済学を学ぶ大学院生のお姉さん(実は叔母さん)と貨幣について会話する。そしてお姉さんに連れられて(東大の)図書館に行く。路香は図書館の地下階からいつしか昔のベネチアに迷い込む。ベネチアで奴隷として売られそうになるが、ギルという少年の手引きで逃れる。

第2章 アラビア
「売買は市場(スーク)においてなされなくてはならない」(イスラムの『伝承(ハディース)』)
路香はアラビアに行く。ギルはアラビアのジャジーラ国の王子だった。ジャジーラ国では市場での物々交換が行われていたが、塩を貨幣とする動きがあった。路香とギルは奴隷として売られていたニーモシュネ姫を買取り、自分たちの家庭教師とする。路香とギルはことあるごとに奴隷を買い取って解放するのだが、市場での奴隷販売の活発化を招いてしまう。

第3章 東の方
「遊牧民国家には国境がない」(安部公房『内なる辺境』)
路香、ギル、ニーモシュネ姫、ギルの家臣イブンらはカーペットに乗って東方への旅に出る。まず、元の上都(シャンドゥ)では紙幣が用いられていることを知る。つぎにジパングに行くが、金が余りすぎていて金が貨幣の役割をしていないことを知る。

第4章 家
「慣習は万物の王」(ヘロドトス『歴史』)
路香は夢から覚め、お姉さんに夢の中の旅について語る。お姉さんは夢の中の貨幣の話から貨幣の数量方程式:
  (貨幣量M)×(流通速度V)=(物価水準P)×(取引量T)
の話に触れる。また、お金も文化も「戦略的補完性=みんなが従うから私も従う」という点では同じだと述べる。

第5章 塔
「暴力は無能者の最終手段である」(アイザック・アシモフ『ファウンデーション』)
再び夢の世界。ニーモシュネ姫にジグラット(バベルの塔)を案内される。また、ギルの家臣イブンは「忘却」の化身、ニーモシュネ姫は「記憶」の化身だったことがわかる。路香は「記憶」=ニーモシュネ姫から「欲望が経済の第一原理」だということを教えられる。しかし限りない欲望をコントロールするために経済学が必要であるとも教える:

限りない欲望をどのようにコントロールするかということ。それを忘れたら人間はただのけだものよ。機械でもけだものでもない人間を育てていくことがあなたたちの『経済学』にもとめられているのよ。

あとがき
以下一部引用

市場の経済に反発する人たちも多い。 <中略> でも、反対ばかりしていても前へは進まない。いや、というより市場の経済学もたくさんいいことを言っている。その成果に耳を傾けないのはもったいない。

市場と文化は対立するものでも分離できるものでもなく、お互いに響き合っているものだ。

市場と文化の関係を分析する新しい経済学が少しずつだけど蕾をつけつつある。路傍にひっそりとたたずむ野の花のように。その香りをきみに伝えられたとしたら少しうれしい。


中表紙裏に引用された「無知は死んだ」という言葉、そして第5章における「忘却」の悪役っぷりから窺われるのは、無知は悪いことだという著者の考えである。とくに経済学において。

逆に「知」といっても、教条的で偏狭な「知」も悪いことだという考えが窺われる。路香の旅は経済システムの多様性を知る旅だった。

この本は、経済や文化についてなんらかの知識を与えてくれるタイプの本ではなく、多様性を認めること、過去の成果をふまえること、この2つのことの重要性を教えてくれる本である。

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