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2008.12.27

【生活者の視点の復権】本山美彦『金融権力』を読んだ

毎日新聞で伊藤光晴が推薦していたので読んでみたのがこれ:

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)
本山 美彦

岩波書店 2008-04
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アマゾンの書評を見ると毀誉褒貶が激しい書である。それだけ、衝撃度の大きい本だといえるだろう。

まずは貶めている側の弁:一番評価の低い人(「自由主義者」氏)は「物事には、常にメリットとデメリット、二つの面がある。しかし、この本は、デメリットばかり強調して、メリットを無視している。」と評しており、そのほかにも「陰謀理論」(「タマラン」氏)という評価もある。

つぎに褒めている側の弁:「一貫して庶民の立場に立った金融論」(「ヒデボン」氏)や「経済学の主要な理論の数々は強い前提の下に構築されるにもかかわらず、それが流通するうちにそんな前提は忘れられがちで、理論を構築した人間の痕跡も忘れられていくということが著者の筆致で強く思い知らされる。」(「dvrm」氏)という評価が挙げられる。

で、小生の読後の感想を述べる。まず、金融権力というものがどういうものかがわかりやすかった。米国では自由化の結果、金融に関係する組織は互いに相互監視するようになっておらず、むしろ人的交流を深めて結託するような構造になっているのである。例えば、金融界の有力者が財務長官に、会計事務所の幹部がファンド設立者に、また会計事務所や格付け会社の幹部が証券取引委員会の幹部に、というようになっているのだそうだ。日本の天下りなんか、目じゃない。

つぎに、金融権力の武器である金融工学への批判。統計的確率論が実体経済にも応用できる筈という思い込みによって成立した脆弱なものであるという指摘はいまさらながら重要。金融工学者たちは、ケインズ、ヒックスといった昔の経済学者が戒めていたことを簡単に無視して無邪気なモデルをつくり、社会を破滅に導こうとしているということである。

さらに、金融権力の形成過程。フリードマンの新自由主義->債権証券化->ミルケンによるジャンクボンド主流化->金融工学による裏づけ->投機的金融システムの巨大化という金融権力形成過程の説明はわかり易い。

しかしながら、フリードマンとモンペルラン協会(ヨーロッパ上流階級の面々で構成される「貴族にとっての自由」を追求する団体だそうだ)のつながりや、フリードマンのお墨付きを得て通貨先物取引市場を創設したレオ・メラメッドがもともとはユダヤ難民だったという興味深い説話によって、新自由主義のイデオロギー色の強さを強調するあたりが、読む人によっては「陰謀史観」に見るのだろう。しかし、

新金融理論の発展は、もちろん、学問上の進歩の帰結であろう。しかし、その裏にある強烈な反マルクス、反ケインズのイデオロギーによる人的結びつきの結果であることを軽視してはならないだろう。(122ページ)

と延べ、一見、中立性を装っている経済学の諸理論に対する注意を喚起している点は見逃してはならない。

「この本は、(新自由主義あるいは現在の金融システムの)デメリットばかり強調して、メリットを無視している。」という指摘があることを上述したが、それは新自由主義側の者が書いた本にも言えることである。新自由主義一色となっているともに、その問題点が噴出している現状では、新自由主義とその他の学説とを公平に土俵に乗せるような悠長なことをせず、デメリット強調路線でコンパクトに話をまとめることが出版戦術として正しいと思う。新書は学術書ではない。

第6章「金融権力に抗するために-新たな秩序への道筋-」は冒頭から面白い。

お金儲けは悪いことですか?」と尋ねられたらこう答えよう。「悪いことです。人を威嚇する方法で得たあなたの巨額の儲けの陰で、無数の人々が路頭に放り出された」と。(180ページ)

金儲けは悪いことである」というのは極端な言い方で、ここだけ読むと、貨幣否定、資本主義否定みたいだが、まあ、本書全体を読めば発言の意味は別にあることがわかるだろう。著者は生産に結びつかない金融が悪であると述べているのである。

あらたな秩序の萌芽として、プルードンの「相互主義」の見直し、地域と結びついた金融システムとしてのグラミン銀行やNPO銀行、生産に結び付かない利子を禁じたイスラム金融、従業員も経営に参画する「従業員持株制度=ESOP」などが挙げられている。これらは金銭的利益が小さいため、新自由主義になじんでしまった現代社会では魅力に乏しいと思う。だが、金融危機後の世界を考えるためのヒントにはなるだろう。

先日読んだこれ↓とまとめて読むと、皆さんも反新自由主義者(笑)になれます。

資本主義はどこまで暴走するのか資本主義はどこまで暴走するのか
森永 卓郎

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