【エコマーケティング】Dillman-Rosa-Dillman説の紹介
英語の論文は一生懸命読んでも、読み終わったら忘却することが多い。
論文の解説をすることで忘却に対する抵抗運動を始めたいと思う。ということで、今回紹介するのはエコマーケティングに関する論文である:
Don A. Dillman, Eugene A. Rosa, Joye J. Dillman, Lifestyle and home energy conservation in the united states: the poor accept lifestyle cutbacks while the wealthy invest in conservation, Journal of Economic Psychology vol. 3 (1983), pp. 299 - 315
エネルギー価格高騰時、アメリカの消費者はどのように対応するかについて研究した論文である。西部10州、8392世帯から集めたデータをもとに分析を行っている。
生活費の節約は、目先の(短期的な)省エネルギー活動との間には相関があるものの、長期的な省エネルギー設備への投資との間には相関が無いという話。
この研究以前、他の研究者は"voluntary simplicity"ということを研究していた。これは"simple living"ともいわれる生活スタイルであり、ようするに「多ければよい」という考え方を抑制することが良いという、まあスローライフの仲間のような思想である。Voluntary simplicityは結果としてエネルギー消費の低減をもたらす。
ただし、voluntary simplicityの選択はあくまでも自主性に基づくものである。RogersとLeonard-Bartonは特記すべきことを指摘している:
for example, a low consumption and low-energy lifestyle is often selected by individuals who are financially able to afford a more luxurious way of living. (Rogers and Leonard-Barton, Voluntary simplicity in California: precursor or fad?, 1980)たとえば、省エネルギー生活はよりゴージャスな生活を送ることができるほど豊かな人々によって選択されることが多い
省エネ車プリウスを買っているのが誰なのかを考えてみたら、この指摘は現在の日本でも当てはまる話である。
さて、voluntary simplicityに関する研究とは対照的に、この論文ではinvoluntary adjustment=いやいやながらの対応について検討することにしている。つまり原油価格高騰に対して、消費者はどのように対応しているのかということである。
1980年代当時、つまりレーガン政権のころであるが、政府は価格メカニズムが省エネルギーを促すと考えていた。それは本当か、というのがこの論文の動機である。エネルギー価格高騰は住宅の省エネルギー改修などを促すだろうという意見もあれば、逆に、生活が圧迫されるので、とても省エネルギー投資なんかをする余裕がなくなり、消費者は目先の省エネ活動だけするだろうという意見もある。そのあたりの疑問を著者らは明らかにしようとしている。
で、いろいろデータだの分析結果だのが出ているが、大事な結果は以下の3つの表で表される。
ひとつはLifestyle cutback indexとHome adjustment indexの関係。Lifestyle cutback index (LCI)とは、娯楽費や教育費などの光熱費以外の費目をどれだけ切り詰めているかという指標で、Home adjustment index (HAI)とはエアコンの温度を控えめにするとかカーテンの開け閉めとか、すぐできる省エネ活動をいくつやっているかという指標である。
結果はこんな感じ:
LCI=11~19 | LCI=20~26 | LCI=27~34 | LCI=35~44 | |
---|---|---|---|---|
HAI=0~1 | 20.4% | 11.5% | 12.3% | 8.7% |
HAI=2~3 | 37.1% | 41.0% | 31.1% | 31.9% |
HAI=4~5 | 35.4% | 40.2% | 44.0% | 42.7% |
HAI=6~7 | 7.0% | 7.3% | 12.6% | 16.6% |
でGoodman-KruskalのGamma(連関係数。まあ相関係数のようなもの)を求めると0.16である。つまり生活費の切り詰めとすぐできる省エネ活動には「やや関連あり」という結果である。
つぎに1980年の世帯年収とLCIの関係を見ると以下の通り:
<$10,000 | $10,000 ~ $19,999 | $20,000 ~$29,999 | $30,000~ $39,999 | >$40,000 | |
---|---|---|---|---|---|
LCI=11~19 | 10.8% | 15.5% | 20.4% | 29.4% | 51.3% |
LCI=20~26 | 21.7% | 25.1% | 29.3% | 31.3% | 27.9% |
LCI=27~34 | 39.7% | 38.9% | 33.9% | 33.1% | 16.2% |
LCI=35~44 | 27.8% | 20.6% | 16.4% | 6.2% | 4.5% |
この表のGoodman-KruskalのGammaを求めると-0.39。つまり低収入ほどすぐできる省エネ活動をやるということになる。
最後に1980年の世帯年収とEnergy action index (EAI)の関係をチェックしてみよう。Energy action indexというのは複層ガラスや太陽熱温水器などの長期的な省エネ投資を行った数を表している。
<$10,000 | $10,000 ~ $19,999 | $20,000 ~ $29,999 | $30,000 ~ $39,999 | >$40,000 | |
---|---|---|---|---|---|
EAI=0 | 23.7% | 23.3% | 17.8% | 17.0% | 10.0% |
EAI=1~2 | 31.5% | 21.9% | 23.4% | 28.3% | 27.2% |
EAI=3~4 | 28.3% | 24.1% | 25.6% | 21.4% | 30.1% |
EAI=5~7 | 14.6% | 23.9% | 29.7% | 29.8% | 28.1% |
EAI=8~14 | 1.7% | 6.7% | 3.4% | 3.6% | 4.4% |
この表のGammaは0.10。弱い相関だが、一応、年収が高いほど省エネ投資を行う傾向が出ている。
以上の結果から、Dillman-Rosa-Dillmanは
- 消費支出の削減と目先の省エネルギー行動の間には緩やかな相関が見られる
- エネルギー価格高騰に対して低所得層は消費支出削減や目先の省エネルギー行動で対応するが
- 高所得層は省エネルギー設備投資で対応する
ということを主張している。
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