高野史緒『赤い星』
沼野充義による毎日新聞の書評(2008年11月16日)を読んで買うことを決定。しかし、小生御用達(ごよう「たつ」と読む奴がいるのには困ったものである)の宮脇書店には在庫無し。こんな有様だから新刊書店がつぶれんるんだよと悪態をつきながら、やむを得ずアマゾンで購入。まだ読んでいる最中だが面白いので紹介する次第。
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目次は以下の通り:
口上
大序 モスクワ・新帝戴冠(しんていのたいかん)ボリス・ゴドゥノフ
一段目 江戸・窶皇子(やつしのおうじ)ドミトリー吉原登楼(よしわらとうろう)
二段目 ペテルブルク・帝室劇場夢幻舞(ていしつげきじょうむげんのまい)
三段目 江戸・赤星封印列車(あかいほしふういんれっしゃ)
四段目 ペテルブルク・忍恋革命戦闘団(しのぶこいかくめいせんとうだん)
五段目 択捉(えとろふ)・シベリア横断問答大旅(おうだんウルトラクイズ)
大詰 江戸・小石川御薬園(こいしかわおやくえん)
あとがき・謝辞
大序では老若二人の修道僧がロシア新皇帝、ボリス・ゴドゥノフの戴冠式のインターネット中継を観ているところから話が始まる。ロシア皇帝とインターネット…?さらに二人の会話から日本がロシアの属国となっているらしいこと、日本には徳川幕府が存在するらしいこと、かつてはソヴィエト連邦という国が存在していたらしいこと、などが浮かび上がってくる。また、ボリス・ゴドゥノフは先帝の皇太子、ドミトリーを暗殺した疑いがあるというのだが…。いったいこの世界では何が起きているのだろう?読み始めた最初の段階で様々な謎が提示され、読者は一気に引き込まれる。
先帝の皇子であると称する「ドミトリー」、将軍のご落胤と称する吉原の花魁真理奈太夫、この二人を結びつけて帝位簒奪を狙うクプルスリー公爵、その陰謀を阻止しようとする幕府大老シュイスキー公爵、真理奈太夫の幼馴染で江戸のソフトウェアエンジニアおきみ、おきみが思いを寄せるペテルブルクのピアニスト龍太郎、龍太郎につきまとうケーニヒ博士、そしてインターネット上で噂される「赤い星」という存在。江戸とペテルブルクを舞台に、謎めいた登場人物たちによって物語が展開していく。
元ネタの一つはプーシキンやムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』である。老若二人の修道僧たちがボリス帝によるドミトリー皇太子暗殺疑惑について語るという導入部分は全く同じ。また、吉原の花魁の「真理奈」という名前は『ボリス・ゴドゥノフ』のポーランド貴族の娘、マリーナから来ている。著者は、光瀬龍『征東都督府』(※)、ギブスン&スターリング『ディファレンス・エンジン』などの歴史改変モノを髣髴とさせる舞台設定(※※)とインターネットという小道具によって新しい物語を作り出している。ただし、舞台の壮大さに比べると、人物の造形がやや甘いのが難かもしれない。
※ 『征東都督府』:日清戦争で日本は破れ、清朝の属国となり、李鴻章都督の支配を受けている。またこの世界では戊辰戦争の折、幕府が勝利しているらしい。青龍寺笙子率いるタイムパトロールがこの歴史改変問題に取り組むという話。
※※ 江戸+IT技術というアイディアは『大江戸ロケット』が近いかもしれない
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