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2008.09.29

『鹿と少年』下巻読了【やっと】

7月初旬に『鹿と少年』の上巻を読了したものの、下巻はしばらく放置していた。

鹿と少年(下) (光文社古典新訳文庫 Aロ 3-2)鹿と少年(下) (光文社古典新訳文庫 Aロ 3-2)
土屋京子

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米国出張時の旅のお供として持参し、なんとか下巻を読み終えたので報告する次第である。心の荷が少し下りた気がする。

上巻ではジョディーの父、ペニーがガラガラ蛇にかまれるのが最大の事件であった。このとき、ペニーは応急処置として雌鹿を殺し、その肝臓を傷口に当てて毒を吸い出すことによって、ペニーは九死に一生を得た。

そして、雌鹿の子供フラッグをジョディーが育てることになったわけである。ジョディーは自分に従順な自分だけのものが手に入ったことで大喜びであった。何をするにもフラッグを連れて回っていた。

下巻ではバクスター家はハリケーンに見舞われる。このハリケーンはフロリダ半島に惨禍をもたらした。ハリケーンが引き起こした洪水によってバクスター家の畑は完全に荒廃し、森の中は死の世界と化した。

スカンクとオポッサムが最も大きな被害を受けたようで、何十という死骸が地面に転がっていた。水が引くときに取り残されたのだろう。くずと一緒に木の枝にひっかかっている死骸もあった。(下巻45ページ)

高台に棲む爬虫類の死骸がびっしりと水面を埋めて、まるで倒伏したサトウキビ畑のようだった。ガラガラヘビ、キングスネーク、クロヘビ、ムチヘビ、チキンスネーク、ガーターヘビ、サンゴヘビ。(下巻46ページ)

水が完全に引いた後も、被害は続く。動物たちの間に疫病(黒舌病)が広がったのである。小動物の減少によって、クマやオオカミなどの肉食動物たちはバクスター家など開拓者の家の家畜を狙い始める。バクスター家のペニーとジョディーはフォレスター家の男たちとともにオオカミ退治に乗り出すが、この狩りの際のいざこざによって、バクスター家とフォレスター家の間に亀裂が入る。

クリスマスが近づいたころ、バクスター家の牝牛が雌の子牛を産む。これで乳牛が増えたと喜ぶバクスター家の一同だったが、スルーフットとあだ名されるクマの襲撃によって子牛は殺される。ペニーとジョディーは夜に昼を継いでの追跡行の末、スルーフットを仕留める。スルーフットは巨大なクマであり、運ぶのは困難だった。ペニーは道の途中で偶然に出会ったバクスター家の男たちにスルーフットの輸送を頼んだ。

スルーフット退治がきっかけでバクスター家とフォレスター家の間の溝は埋まったかのように見えたが、フォレスター家の男たちがヴォルーシャという町でクリスマスに引き起こした事件(バクスター家と親しい「ハットーばあちゃん」の家屋への放火)によって両家の関係は完全に断たれてしまうことになる。

3月になりペニーとジョディーが畑作りに励んでいた時のこと、ペニーが切り株を引き抜こうとして力を入れた時に足の腱を切ってしまう。これでペニーは満足に歩けない体に。以後はジョディーが畑作りを担うことになる。ところが、成長したフラッグが芽を出したばかりのトウモロコシを食い荒らすという事件を引き起こす。ジョディーは母親の協力を得て畑の周りに柵を作るが、フラッグは軽々と柵を乗り越え、再びトウモロコシの芽を食い荒らす。ペットの悪戯によって生命の危機に陥るバクスター家。

ペニーは言った。「ジョディ、できることはすべてやった。残念だよ。おれがどれほど残念に思ってるか、言葉ではとても伝えられん。だが、一年分の作物をだめにされるわけにはいかん。食うものなしで生きていくことはできんのだ。フラッグを森に連れてって、木にしばりつけて、撃ち殺せ」(下巻345ページ)

さて、少年ジョディーはどうするのか?というのが、この小説全体のクライマックスである。

上巻は『鹿と少年』あるいは『仔鹿物語』という題名から連想されるような、「知恵と勇気と優しさをそなえた父親の背を見ながら、少年が自然の中でのびのびと育つ」という話だったのだが、下巻では自然の脅威にぶちのめされながら少年が成長するという話になっている。決して児童文学などではなく、全年齢層向けのハードな小説である。

上下巻通して感じたことを2つ。

1. 自然をよく描いている
著者、マージョリー・キナン・ローリングスはフロリダの原生林で生活していただけあって、非常に詳しく自然の様子を描いている。前に引用した蛇の名前の多さもそうだが、矮樹林(スクラブ)、沼地(スワンプ)、樹林地帯(ハンモック)、樹島(アイランド)、湿地林(ベイヘッド)など森や地形の区別をあらわす言葉や大王松(ダイオウショウ)、オーク、常緑カシ、パームツリー、ヒッコリー、イトスギ、スパニッシュ・モス、ゴールドベリー、ミクリ、チェロキー・ビーンなどの草木の名前を駆使して多様で複雑なフロリダの自然を描き出し、読者を圧倒している。

2. 白人しか出てこない
この小説には原生林およびそれに隣接する町で生活する貧しい白人(プア・ホワイト)たちしか登場しない。解説によれば、こうすることによって、プア・ホワイトと黒人との激しい対立を描かないようにしているとのことである。自然にぶちのめされながら少年が成長する話として小説を完結させようとすれば、現実の一部をカットせざるを得ない。この技巧によって『鹿と少年』はすぐれた小説として成立することになった。

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コメント

noteたびっ の おっともっに こっじかっちゃん~notes(テキトーにうたって下さい。)
とと、そんなに浮かれた内容ではなかったですね。
『大草原の小さな家』を思い出しました。
ちなみに野生の鹿ってご覧になったことありますか?
私は山の中で遭遇したことがあります。
シャープで端整で無駄なところが無く、神々しかったです。
ありえない断崖を下って行きました。

投稿: おじゃまします | 2008.10.01 22:29

小生が鹿を間近で見たのは奈良の公園ぐらい。

昨日の毎日新聞には次のような俳句が載っていました。

 鹿の前吾もあらあらしき息す 橋本多佳子

同じ心境だったのでしょうか?

投稿: fukunan | 2008.10.03 11:06

あ、私の名前がバレてしまった。
って、もちろんウソです(恐れ多いこと)。
同じ心境でもこんな立派な俳句は浮かびません。

私は車の中から見ました。
雌か雄かはわかりませんでしたが、「ハっ・・・!」と呼吸が止った(これはほんと)ほど美しかったです。

投稿: おじゃまします | 2008.10.03 12:39

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