鹿と少年
4月に買って以来、ダラダラと読んでいたこの小説、ようやく上巻を読了した。
鹿と少年(上) (光文社古典新訳文庫 Aロ 3-1) 土屋京子 光文社 2008-04-10 売り上げランキング : 221550 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
通常は『仔鹿物語』として知られている作品で名前だけは小生も聞いたことがある。童話だろうと思って見向きもしなかったのだが、今回光文社古典新訳文庫に入ったので初めて読むことにした。光文社のことだから、何か意図があるに違いないと思って。
仔鹿と少年の交友を描くほほえましい物語かと思っていたら、案の定裏切られた。仔鹿が登場するのは上巻の後半14章であり、仔鹿と少年の交友の話は当分おあずけである。
この作品の主人公はバクスター家の一人息子ジョディ。矮樹林(スクラブ)に囲まれた開墾地で小柄な父親ペニー(ペニーは愛称。本名はエズラ。何でペニーかと言うと小柄なので、1ペニー硬貨に例えられたため)と大柄な母親オリー(本名オーラ)と暮らしている。
上巻では主人公ジョディよりも父親ペニーが圧倒的な存在感を示している。上巻はペニーの物語といったほうがいいかもしれない。
上巻ではフロリダ半島の開墾地の自然の厳しさを知り、そこで家族を守りながら生活を続けるペニーの偉大さをじっくりと感じることが中心となる。
開墾地の自然がどう厳しいかというと、まず、開墾地を囲む矮樹林(スクラブ)にはガラガラヘビだの、パンサーだの、クマだの、危険な動物がいっぱいすんでいることが挙げられる。クマは時々バクスター家の開墾地まで侵入し、バクスター家の豚を殺してしまったりする。バクスター家の開墾地には水は出ず、遠くにある陥落孔(シンクホール)まで水を汲みに行かなくてはならない。バクスター家はトウモロコシ、ササゲ、エンドウ、サツマイモなどの畑を持っているが、そこで得られる食料は一家三人が生きていくので精一杯である。離れたところに住むフォレスター家のバックがジョディにこう語る:「おまえん家、かつかつなんだな」(318ページ)
ペニーの偉大さだが、次の通り。ペニーは余分にもらったつり銭を返すために数マイルを往復するほどの正直者として通っており、知り合いは抜群の信頼を寄せている。しかし単なる馬鹿正直者ではなく、嘘をつかずに駄犬と最新式の銃との交換を成功させる知恵を備えている。また知り合いが1対3の喧嘩をしているときには、1人で戦っている方に助太刀する正義感と勇気を持っている。
こんなに偉大だと厳格な父親のような気がするが、遊んでいられるのも少年のうちだ、と考えて自由奔放にさせ、口うるさい母親からジョディを守っている。そんな父親をジョディは常に尊敬のまなざしで見ている。
上巻の最大の事件は、ジョディの目の前でペニーがガラガラヘビに噛まれる事件である。腕を噛まれながらもペニーはガラガラヘビを殺し、近くにいた雌鹿を殺して肝臓を取り出し、傷口に当てて毒を吸い出す作業を行う。そして、ジョディに救援を呼びに行かせる。危機的状況でもパニックに陥らず、冷静に対処するあたり、ペニーがただ者ではないことを示している。
なお、この事件で殺された雌鹿の子供がジョディが飼うことになる仔鹿「フラッグ」である。
さて、下巻ではどんな展開になるだろうか?
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コメント
上巻の感想を読んで、一刻も早く下巻が読みたくなったので書店へ買いに行きました。
・・・残念ながらありませんでした。
鹿と少年(下)を探す旅に出たいと思います。
投稿: おじゃまします | 2008.07.06 21:01
いきなり下巻ですか?! まあ、もちつけ!
まずは上巻を読んでから下巻に進んでください。大きい本屋ならきっと置いてます。
都市伝説ですが、
元プロボクサーの竹原慎二がシドニー・シェルダンの小説にチャレンジしたとき、「わしは初心者じゃけえ、いきなり『上』級に進むわけにはいかんじゃろう」と、上下巻の「下」巻から読み始めたという話があります。
投稿: fukunan | 2008.07.07 00:53
ダメですか~
でも確かに上巻の感想を読んだからっていきなり下巻に行くってのは、若干間違った方向へ行ってますね。
あっはははは
それが伝説でなく本当なら、竹原さんは謙虚で真面目な方なんでしょうね。
投稿: おじゃまします | 2008.07.07 13:09