常温核融合の次はウォーターエネルギー
次々に新しいエネルギー源の話が報道(?)されるのは、1バレル200ドルまで行くのではないかと言われる原油高のせいだろうか?
先日取り上げた常温核融合の話の次は、ウォーターエネルギーの話である。水がエネルギー源になり、それで車を走らせることができる、という内容:「水から電流を取り出すことを可能にした新しい発電システム『ウォーターエネルギーシステム』を見に行ってきました」(Gigazine、2008年06月12日)
大阪府の議員会館で「ジェネパックス」社による「ウォーターエネルギーシステム(WES: Water Energy System)」の説明会があったのだそうだ。同記事に写真が掲載されているが、このシステムで走る自動車も展示されていたという。
発電の仕組みを見ると全体的には燃料電池とほぼ同じである。違いは次の通り:
多くの燃料電池の場合、燃料が「化石燃料または水の電気分解から得られた水素」つまりあらかじめ準備された水素である※。(※メタノール直接燃料電池:MDFCの場合はメタノールから水素イオンを取り出す。MDFCではその際、CO2が排出される)
これに対し、WESでは、水を入れておけば、「触媒」によってそれが水素と酸素に分解され、燃料として利用可能になる。
つまり、「触媒」が勝手に水から燃料を作ってくれるということで、ここが争点になるところである。
……小生としては、そんな便利な触媒があるのだろうか、という疑問を抱かざるを得ない。
Gigazine記者もそこのところはちゃんとフォローしており、質疑応答内容を公開している:「真偽判断に役立つ「ウォーターエネルギーシステム」に対する各報道陣からの質疑応答いろいろ、そして現時点での結論」
このニュース、ロイターでも取り上げられている:"Water-fuel car unveiled in Japan"が、ある大学教授は疑問を呈している:"Professor doubts water car claims"
そりゃ当然でしょう。
で、先日から良く取り上げる、ベンジャミン・フルフォードもこのニュースに飛びついているのだが、信じきっている!!
Gigazine記者の結論は次の通りであり、小生としても同意見である:
もし本当にそのような都合のいい触媒が実在し、なおかつ安定物質である「水」をこのように分解することが真に可能であるならば、まぎれもなく「世紀の大発見」なので、すぐに学会の権威を呼び集めて検証してもらってお墨付きを得た後、第3者が検証可能な形にしてから発表すべきではないでしょうか。現時点では内容にあまりにも疑問点が多すぎるため、残念ながら「疑似科学」扱いの領域を脱し切れていません。本当に地球の未来と環境のことを考えているのであれば、その「企業秘密」の触媒などの部分を明らかにして欲しいものです。それらが明らかになるまでは残念ですが「ウォーターエネルギーシステム」を信じることはできません。
なお、「水から電流を取り出す方法」よりも「ウォーターエネルギーシステムからお金を取り出す方法」に興味がある、というNATROM氏による面白い記事「ファインマンさんと永久機関」があるので、興味ある人はご参照いただきたい。
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