カーボンナノチューブ:その光と影
カーボンナノチューブを発見した飯島澄男氏(当時NEC筑波研究所、現名城大大学院教授)にノルウェー科学アカデミーから「カブリ賞」というものが送られることになったという:
カーボンナノチューブ発見の飯島教授らに「カブリ賞」(アサヒ・コム 2008年05月29日)
カーボンナノチューブはいろいろな可能性を秘めた素材(鋼よりも強く、銅よりも電気を通す)として注目されている。今回の受賞はお祝いすべき話である。
しかし、別のところからは「アスベストに似た健康被害」を引き起こす可能性が指摘されている:
ナノチューブはアスベストに似た健康被害を及ぼす恐れ、ネイチャーに研究発表(Technobahn 2008/5/22)
エジンバラ大学のケネス・ノナルドソン(Kenneth Donaldson)教授らのグループが"Nature Nanotechnology"誌で「ナノチューブ一般が<中略>肺がんなどを誘発する危険性が高い」と論じているのだそうだ。
一応、原文が公開されていたので、見てみた:
Nanotoxicology: Signs of stress, Vicki Stone and Ken Donaldson
Ken (Kenneth) Donaldson教授は粉体毒性学(Particle toxicology)が専門。
Nature Nanotechnologyの記事には、ラットの肺細胞が自分よりも長いカーボンナノチューブを取り込もうとしている写真が掲載されている。これは、ラットが自分の身体からナノチューブを取り除くことができないことを意味しているということだ。
同記事では、今後、ナノチューブの毒性に関する研究成果を集積し、ナノ粒子による毒性のメカニズムについて学ぶことが必要であると述べて締めくくっている。
以前、海外の学会に行ったときにデンマーク工科大学のJan Sundellという学者が、新しい化学物質による健康被害を見過ごしてはいけない、ということを述べていた。ナノチューブも同じことである。
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