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2008.02.25

論文の技法

先日、「内容はいいのに、翻訳が駄目」という記事で取り上げた『論文の技法』を再読して要約してみた。

論文の技法 (講談社学術文庫)論文の技法 (講談社学術文庫)
ハワード・S. ベッカー パメラ リチャーズ Howard S. Becker

講談社 1996-09
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この本は本文だけで300ページあるものの、内容を要約すれば非常に簡単である。「どんどん書け」「どんどん直せ」ということに尽きる。こんなに簡単に要約できるのは、著者の姿勢がぶれないからである。

<要約>

第一章 大学院生のためのフレッシュマン英語―一つの回顧録、二つの理論
この章は著者が大学院生に対して論文執筆の指導をしたときの経験をもとに書かれている。この章の要点は、「一回書けば終わり」という考え方をなくそう、ということに尽きる。はじめから優れた論文を書くことは不可能であり、何度でも手直しすることを前提として論文執筆に当たれば、書き始められないという問題をクリアできる、ということを主張している。

第二章 ペルソナと権威
なぜ論文は小難しい気取った文体になるのかということについて、論文の文体の背後にあるペルソナ(人格)を用いて説明した章である。

論文を執筆するとき、執筆者は学術的ペルソナ、つまり研究者という人格をまとい、研究者らしいとされる文体で文章を書くのである。「学術的ペルソナは、筆者を、一般的に、権威があり、彼らが話していることに関して決定権をもつ資格があると思わせるようにするのです。(79~80ページ)」

また学術的ペルソナが生まれる源泉は、特定の研究分野の権威的人物や集団の言動である。論文執筆者はその研究分野の一員であることを示すため、権威的人物や集団の言動を真似るのである。
「彼らは自分たちの周りで目にするもの、つまりプロの学術雑誌の論文や著作の書かれているスタイルを、彼らのギルドの会員であることを表す適当なサインとみなして、取り入れてしまうのです。(87ページ)」

第三章 正しいやり方は一つか?
この章では文章を構成していく理想的な方法は無いということを述べている。とにかく書き始めてみれば、書き始める前に悩んでいたほど、多様な選択肢があるわけではないことに気付かされるという。

また、ある主題について記述するのが難しければ、なぜ、その主題について記述することが難しいのかということ自体について記述してみれば良いと著者は述べる。

第四章 耳を使って修正する
この章では草稿に手を入れるときの規則が述べられている。文書執筆にはアルゴリズムのような固定した規則が無く、「こう表現すればよく聞こえる」という発見的かつ審美的な規則だけが頼りになると主張されている。つまり、手本とするべき文章を読むことによって鍛えた「耳」が頼りになるということである。

ここで注意しなくてはいけないのは専門分野の論文の文章ばかり読んでいると「耳」が偏ったものとなってしまうことである。専門分野以外から良いモデルを探すことが必要となる。

著者自らが示す指針としては次の6つがある。

1. 受動態に気をつけること
受動態は行為者を隠してしまうということに注意する必要がある。能動態は理解しやすく、信用を勝ち得る文章を作ることができる。

2. 語数は少なく
あることを簡明に言ってしまうと、誰でもいえることのように聞こえる。これを避けようとして研究者は余計な言葉を挿入してしまう。初期の原稿では余計な言葉があっても良い。手を入れるときに削除すればよい。

3. 繰り返し
不明確な部分を無くそうとして、くどい語句を使ってしまうことがある。同じ語句を繰返さなくても意味が伝わるのなら削除するべき。

4. 構文と内容
構文がその内容についての読者の理解を妨げないように、文の要素を配置すること。

5. 具体的と抽象的
「複合」とか「関係」のような抽象語はあまりに一般的で、何も意味しないことが多い。具体的なことが書かれていないと、読者はアイディアを理解できない。

6. 隠喩
陳腐な隠喩を使わないこと。「ある本の議論が散漫であると言うほうが、『何らかの新しい切り口が欠けている』と言うよりも、より的確(167ページ)」である。

第五章 一人の専門家として書き方を習う
この章では著者の社会学者としての経験から、論文の技法というものは「生涯にわたって学ぶもの」であることが述べられている。

著者はシカゴ学派の一員として育つことにより、自分は基本的に正しいのだという自信を得、書くことへのプレッシャーから開放された。また、文書執筆を面白いゲームだと見なすことにより、文書執筆の不安に対する免疫を身につけた。著者は常に文書執筆に興味を持っており、なるべく短い文章で複雑なことを伝えるという実験も行っている。また、草稿について批評してくれる友人も持っている。

第六章 リスク
この章はパメラ・リチャーズからの手紙に基づく。

ここで取り上げられているリスクとは、論文の草稿を同業者に見せて批評してもらうことによって生じるリスクのことである。具体的には、同業者からダメ研究者のレッテルを貼られるのではないかということを言っている。未完成な文章を見せたときには「この人は文章が下手だなー」と思われてしまう可能性があるし、草稿に目新しいアイディアが盛り込まれていないときには「新規性や独自性が無いなー」と思われてしまう可能性がある。

このようなリスクはあるものの、リスクは犯すに足ると著者は述べる。リスクには負けもあれば勝ちもあるのである。このリスクを乗り越え、評価を勝ち得た論文を少しずつ蓄積していけば、このリスクを犯すことはだんだんと容易になるであろうと著者は述べる。

なお、この章の一節(214~215ページ)に訳者が「アイディアの横取り」という見出しをつけているが、これはおそらく訳者のミス。なぜならこの節では、草稿の読み手が草稿の中に「素晴らしいアイディアを探している」ことは語られているが、アイディアを盗もうとしているとはかかれていないからである。この節で問題になっているのは草稿にアイディアが盛り込まれていないと読み手に判断されてしまうリスクである。その証拠にこの節にはこのような文章がある。
「もし、洞察の閃きや、注意を引きつけるようなアイディアがないとしたら、読む人が出す結論は何かというと、あなたが愚か者であるということでしょう。(214ページ)」

第七章 それをドアから外に出す
この章で問題になっているのは、いつ、論文を公表するかということである。論文執筆者の心中では「あるものをよりよくすることと、それを切り上げることとの間」の緊張が生じている。
この問題に対して、著者は直接的ではないが、「あなたが、自分でした仕事が実際の世界でどのような役割を果たして欲しいかを決めることによって、あなたの仕事をいつ、ドアから外に出したらよいかが決められるのです」と解答している。

また、著者は「かけた時間=論文の質」ではないことを示すために、ディケンズらの文豪が書いていたのは安物の週刊誌であったことを述べ、過剰な禁欲主義も戒めている。

第八章 文献の恐怖
文献を引用することは、引用文献との対比によって自分の研究のオリジナリティを示すことや、説明の一部を引用文献に負担させることができるという点で便利である。しかし、文献に寄り過ぎるとそれが規範どころか制約になって、研究者が主張したいことが十分に展開できない可能性もある。要約すればこの章では「文献を使え、使われるな」ということが主張されている。

第九章 摩擦とワープロ
本章ではワープロ(現代ではパソコン)の普及によって、論文を書き直す際の物理的障壁(本書では「摩擦」と表現している)が低くなっていることが語られている。

第十章 最後に一言
本章は全体の要約的な章である。論文執筆は「どんどん書け」「どんどん直せ」ということに尽きる。

・・・ということで、論文執筆者にとって非常に参考になる内容の本である。是非一読を!と言いたいとこだが、訳文がまずい。忍耐力がある人だけ、チャレンジしてみると良い。得るものは確かにあるはずである。

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2008.02.24

雪
本日、宇部は雪に見舞われてしまった。

これは朝9時の様子。これから出勤というときに自動車が雪に埋もれてしまって一苦労。

全国的に大荒れの天気だったようで。

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2008.02.19

メジロ保護

メジロ保護
今日の午後、屋外で倒れていたメジロを保護。

拾ったときは「ウグイス」扱いされていたが、後程、メジロだと判明。

どうも窓ガラスにあたって脳震盪を起こしていた様子。しばらくしたら元気に飛び回り始めたので、外に放した。

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2008.02.17

UbuntuにOpenFOAMを(2)

昨日の作業までで,OpenFOAM関係のファイルの展開が終了したので,今度は,


  • gcc-4.2.1.linux.tgz
  • paraview-2.4.4.linux.tgz
  • j2sdk1.4.2_05.linux.tgz

の解凍作業を行う必要がある.
以下,「GiroD'Ana ジロ・デ・解析屋 OpenFOAM」の記事を参考に作業を開始.

まず,昨日作成したOpenFOAMディレクトリの下にlinuxディレクトリを作成する.そのため,OpenFOAMディレクトリに移動した後,次のようにコマンドを打ち込む.

mkdir linux

これでlinuxディレクトリ完成.そして,linuxディレクトリにgcc-4.2.1.linux.tgz,paraview-2.4.4.linux.tgz,j2sdk1.4.2_05.linux.tgzの3つのファイルを移し,それぞれ
tar zxvf gcc-4.2.1.linux.tgz
tar zxvf paraview-2.4.4.linux.tgz
tar zxvf j2sdk1.4.2_05.linux.tgz

と打ち込んで解凍する.

これで解凍が全て済んだので,次は環境設定.

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ゴールデンあんこう

この間は黄金のひらめについて報告したが,今度は福井県で黄金のアンコウが見つかったという.

「突然変異? 黄金色に輝くアンコウ」(アサヒコム 2008年02月17日)

魚の白子(アルビノ)は黄金色になってしまうらしい.小さいころから目立つだろうに食べられたりしなかったのだろうか?

黄金のアンコウは水族館に引き取られたということで,先日の食べられてしまった黄金のひらめに比べたら幸運である.

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2008.02.16

UbuntuにOpenFOAMを(1)

さて,昨日,Ubuntuを導入したわけだが,それで終わるわけには参りません.あくまでも目標はOpenFOAMを使うこと.

で,先人たちの教えを請うべく,次の2つのウェブページ(とブログ)を参考に作業を開始.

GiroD'Ana ジロ・デ・解析屋 OpenFOAM
Kazuhiro's Weblog: OpenFOAMをインストール

まずは,OpenFOAMのダウンロードサイトから


  • OpenFOAM-1.4.1.General.gtgz
  • OpenFOAM-1.4.1.linuxGccDPOpt.gtgz
  • OpenFOAM-1.4.1.linuxGccSPOpt.gtgz
  • gcc-4.2.1.linux.tgz
  • paraview-2.4.4.linux.tgz
  • j2sdk1.4.2_05.linux.tgz

の6つのファイルをダウンロード.

なんとか1時間ほどで全てダウンロード完了.

しかし,ここであわてて解凍を開始してはだめ.まずは,保存先のディレクトリを作成しなくてはいけない.

ubuntuのアプリケーションの中からGNOMEターミナルを立ち上げ,

cd

と打ち込んでenter.これでlinux上のホームディレクトリに移動できる.そして次のようにコマンドを打ち込んで,OpenFOAM用のディレクトリを作成する.
mkdir OpenFOAM

そしてenterを押す(以後はいちいちenterを押すことは省略)と,OpenFOAMという名前のディレクトリが完成.このOpenFOAM内にOpenFOAM-1.4.1.General.gtgz,OpenFOAM-1.4.1.linuxGccDPOpt.gtgz,OpenFOAM-1.4.1.linuxGccSPOpt.gtgzの3つのファイルを移動させていよいよ解凍作業開始である.

まずはOpenFOAMディレクトリ内で

tar zxvf OpenFOAM-1.4.1.General.gtgz

と打ち込むとOpenFOAM本体(?)の解凍が始まる.これがなかなか終わらなくて30分以上かかる.
それが終わると,いつの間にかOpenFOAMディレクトリ内にOpenFOAM-1.4.1というディレクトリが勝手にできている.実はここにOpenFOAMの有象無象が保存されているわけである.

この作業が終わったら以下同様にOpenFOAMディレクトリ内で,

tar zxvf OpenFOAM-1.4.1.linuxGccDPOpt.gtgz

とか
tar zxvf OpenFOAM-1.4.1.linuxGccSPOpt.gtgz

とか打ち込んで,OpenFOAM関係のファイル解凍作業が終了である.

以後の作業はまた明日.

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Ubuntuに手を出してしまった

UbuntuというLinuxベースのOSがあるが,とうとうこれに手を出してしまった.Ubuntuというのはアフリカのバンツー語で「思いやり」という意味だそうで.

手を出した理由は,OpenFOAM (Open Field Operation and Manipulation)というCFD (Computational Fluid Dynamics:数値流体力学.まあ,熱流体のシミュレーションソフトだと思ってください)ツール群を使いたくなったため.このOpenFOAMはLinuxだのUnixだのの上でしか動かないので,Linuxが必要になったわけである.

Ubuntuをインストールするにあたっては,現在使用中のWindows XPを搭載したパソコンをパーにするわけにはいかないので,当然のことながら,死蔵していたパソコンを使用することになった.白羽の矢が立ったのはノートパソコン:SONY VAIO FR55Bである.以前,メモリを増強したので768MBもある.ハードディスクもかなり空いている.

まずインストールであるが,これでコケた.

VAIO FR55Bとは別のパソコンで,Ubuntuのダウンロードページからubuntu-ja-7.10-desktop-i386.iso(Ubuntu 7.10のCDイメージ)をダウンロードし(711MBもあったので時間がかかった),Kanbe.exeというCDやDVDを焼くためのフリーソフトでCDを作成.そのCDを使って,VAIO FR55Bにインストール開始! ・・・ところが最初だけ"Ubuntu"の画面が出てくるものの,インストールを開始するや否や,

busy box v1.1.3 (debian 1:1.1.3-22ubuntu3) Built-in shell (ash) Enter 'help' for a list of built-in <中略> /bin/sh: can't access tty; job control turned off (initramfs)

と出てきて中断.あれこれ再挑戦しても駄目.

やむを得ず,ネットで"Ubuntu initramfs"と打ち込んでGoogle検索をしてみたところ,どうも何かのドライバとの相性が悪いらしいと判明.結局,バージョンダウンして,Ubuntu 6.06 LTSをインストールすることにした.また最初に戻って,ubuntu-ja-6.06-desktop-i386-20060805.iso(Ubuntu 6.06のCDイメージ) をダウンロードし(これも685MBあって時間がかかった),またCDに焼いて,インストール再挑戦.

そうしたら今度はインストールに成功.やれやれ.続きはまた明日だな.オープニングの太鼓の音らしいものがうるさいんですけど.

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2008.02.15

三遊亭円丈落語の世界

という,ある落語家によるウェブページがあるのだけれど,これがすごくマニアックで面白い.

以前見て,その後忘却していたのだが,こちらが忘れていても向こうさんはちゃんと更新していて,気がついたら,2月11日に最新の記事が加わっていた.

さて,マニアックというのは落語の話ではない.三遊亭円丈が超古典的パソコンユーザー&ゲーマーだということがマニアックだというのである.まあ,このページをご覧あれ.2004年末から更新されていないが,内容は非常に濃い.

この人,フロッピーディスクが登場する前の,カセットテープでパソコンのデータを記録していた時代に,すでにゲームをやっていたのである(かく言う小生も実は小学生時代にBasis Master Jr.という日立製パソコンで「平安京エイリアン」というゲームをしていたのであるが).

今から20年以上前のコーエー,エニックス,ハドソンのゲームが紹介されている.記事を読むと,カセットテープでゲームのプログラムを読み込むと,何分もかかって大変だったのを思い出す.当時の苦労を思い出せば,インターネットで反応が遅いぐらいで怒ってはいけないのである.

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2008.02.14

抜群教授(笑)

「東北大、「抜群教授」に特別手当 最高月20万円」(アサヒ・コム 2008年02月14日)

ひどい名称だなー.
名刺に「抜群教授」と書かれているとき,受け取った相手が笑いをこらえている有様は想像するに難くない.あと,名刺を渡した後にどこかでネタにされている様子も...

英語名称のdistinguished professorも何かやだ.別にもらえませんけど.一応英語としてそういう名称があるというのは初めて知った.

一流だったら,名称がなくてもわかるよねぇ.20万円の手当てというのも中途半端.

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2008.02.11

ゴールデンひらめ

宇部の寿司屋「呑兵衛(のんべえ)」(2回ぐらい行ったことがある)に黄金のひらめが入荷:「商売繁盛! 黄金のヒラメ (写真あり)」(宇部日報 2008年2月9日)

萩市で取れたそうで、90センチ以上もある。

でも、

昼間は店先の水槽で展示されたが、夜には刺し身やあら炊きなどに料理され、客のおなかを満たした。

あーあ、食べられちゃったか。

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南大門炎上

本日(2月11日)未明,「南大門」として知られるソウルの「崇礼門(スンネムン、すうれいもん)」が炎上、崩壊した。韓国メディアは当然大騒ぎである。

この様子を目撃していた日本人観光客のアサオカさん(45)は「テリブル、テリブル!」と何度も繰り返し、「近くのホテルに泊まっていたところ、煙が見えたので出てきた。国宝第1号が燃えてしまうなんて、日本では想像もできないこと」と話した。

文化遺産委員会のファン・ピョンウ委員長は、聯合ニュースとのインタビューで「消防当局は2時間もの間、遠くから放水しているだけだった。今はその消防車も水がなくなったため、1台いなくなり、火がまた勢いを増してきた」と悲しそうに現場を見つめた。
朝鮮日報、2008/02/11)

今回炎上した崇礼門は李氏朝鮮初代の太祖・李成桂が1395年に着手し、1398年に完成させた建造物だそうである。朝鮮戦争でも生き残り、1962年12月に「国宝第一号」に指定されたとのこと。

さて、日本で同じころの国宝建築物でいうと何だろう? 山口県だと大内義弘が1442年に建てた「瑠璃光寺」が(時代が)近いと思う。これは火災にも遭わず、無事に立っております。

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2008.02.09

20歳。天才作家デビュー!

毎月、光文社古典新訳文庫を一冊買っては読書しているのだが、昨日この本を読み終えた。

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)
ラディゲ 中条 省平

光文社 2008-01-10
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『車輪の下で』の記事と同じようなことを書くが、『肉体の悪魔』は今でこそ古典扱いだが、1923年当時は20歳の新星(しかもこの歳で命を落とす)が書いた恋愛心理小説だったのである。若いのにこんなに老成しているなんて!と驚くほどの透徹した文章。

舞台は第1次世界大戦中のパリ近郊。15歳の少年が、婚約者のいる19歳の女性、マルトに出会い、恋に落ち、妊娠させ、その人生をむちゃくちゃにするという話である。あらすじはスキャンダラスだが、珍しいものではない。重要なのは、ときおりユーモアすら交えられた、主人公の冷めた独白である。冒頭の一文を見れば、ただ事ではないことがすぐわかる。

僕はさまざまな非難を受けることになるだろう。でも、どうすればいい?戦争の始まる何か月か前に十二歳だったことが、僕の落ち度だとでもいうのだろうか?(p. 6)

次の引用文を見て欲しい。まるで恋愛のベテランのような言葉の数々。

精神的な類似は身体にまで及ぶことがある。目つきに、歩き方。(中略)遅かれ早かれ、身ぶりひとつ、声の抑揚ひとつで、どんなに用心していても恋人同士だと分かってしまう日がやって来る。(p. 134)

すべての愛には、青春期と成熟期と老年期がある。僕はすでに、なにか技巧の助けを借りなければ愛に満足できない最後の段階に来てしまっていたのだろうか(pp. 124 - 125)。

真剣な話ばかりかと思えば、こっけいな話もある。主人公はマルトの部屋で愛を重ねるのだが、マルトの部屋の真下にはマラン夫妻という夫婦が住んでおり、ある日、仲間を読んでパーティーを開催しようとする。主人公は人づてにそのパーティーの目的を知った。

マラン夫妻の余興の正体を知ったときの僕たちのびっくり仰天ぶりを想像してほしい。夕方ごろから僕たちの寝室の真下に陣取って、僕たちの愛の行為を盗み聴きしようというのだから。(p. 119)

主人公はもちろん、マラン夫妻のたくらみを逆手に取り、夫妻のパーティーの最中は音ひとつ立てずに過ごす。そして、

僕は意地悪く、マラン夫妻がお仲間に聞かせてやりたかったものを、仲間が帰ってから夫妻だけに聞かせてやった。(p. 120)

小説の終わり近くに書かれた次の一節は印象に強く残る。

死期の近づいただらしない人間は、そのことに気づいたわけでもないのに、突然、身辺整理を始めるものだ。生活が一変する。書類を仕分けし、早寝早起きし、悪臭を断つ。まわりの人びとはそれを喜ぶ。それだけに、突然の死はなんとも理不尽なものに思われる。これから幸せに生きようとしていたのに。(p. 201)

訳者の解説によれば、『肉体の悪魔』出版後、20歳で死んだラディゲの最後はまさしくこのとおりだったとジャン・コクトーが証言してるという。まるでラディゲの透徹した文章は自分の最後まで描き出していたかのようである。

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2008.02.05

県別の所得格差は二倍以上!

さて本日,内閣府経済社会総合研究所が平成17 年度の県民経済計算について(PDF形式 297KB)を発表なさいましたよ!

問題の県民所得ですが,1位の東京都は477万8千円なのに対し,最下位の沖縄県は202万1千円.格差は実に2.4倍!

平成16年だと,東京都:451万4千円に対して沖縄県:198万5千円で2.3倍だったので,じわじわと格差が広がっているわけです.

ちなみに第2位は愛知県で352万4千円,第3位は静岡県で334万4千円.うーん実家(静岡県)に帰ろうかな.

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キバノロってなんや?!

国内で唯一飼育のキバノロ死ぬ 京都市動物園、小型のシカ」(京都新聞 2月4日)という記事を見て、「何スか?それ?」と思った。

記事によると、「キバノロは中国や朝鮮半島の草原などに生息する小型のシカで、角はなく、雄は上あごにある牙状の犬歯が発達する。」のだそうである。ググってみたら、けっこうキバノロに関するページがあった:

キバノロ
山海経動物記・天馬

ウィキペディアに乗っているかと思って探したら、中国のウィキペディアに飛んでしまったことであるよ。なんとなく中国語を読んだところ、「もっとも原始的なシカ科の動物。原産地は中国東北部と朝鮮半島、1870年代にイギリスに輸入された。」との記述があった。同ページには、牙のあるオスの剥製の写真も掲載されているので、興味のある人は見られたし。シカにではなくて、凶暴な生き物に見える。

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2008.02.03

狐寝入夢虜(きつねねいりゆめのとりこ)

主人公の上岡鳥子は三週間前に職を失った20歳過ぎと思われる女性で、「痩せぎすで、大きな唇の分厚いのがやや捲くれ上がった、ロック歌手のミック・ジャガーが日本でアバンチュールをやらかした際に出来てしまった娘ッ子、とでも言うような風貌をしている。」

そんな鳥子が空腹に耐えながら近所の神社に散歩に行き、その帰りに迷子になり、年下の古本屋の倅、橘に出くわし、茶飲み話をし、花札をし、帰る道すがら古本屋勤めを考える、という話である。

あらすじだけからすると他愛が無いが、大事なのは出来事ではなく、まず、鳥子の姿勢や思考であり、さらにこの小説の文体である。文体については別記事で述べたいと思う。

鳥子は怠け者であり、職に就いていないこと自体は気にしていない。前の職も友人が世話してくれた手前、しぶしぶ続けていただけなのである。鳥子の仕事観は次のようなもの:

―仕事にあくせくしなければ自分の存在理由を確認出来ないなんて、それは一段と貧しいじゃないか。
―大体、自分の存在理由なんぞ気にしなければ生きていけないとは、随分気取ってやがるのね。

勤め人の友人から醜悪な忘年会の写真を見せられ、鳥子は(ひょっとしたら著者は)こう思った。
かようにして社会生活というものが健全かつ自由な精神活動を蝕むというのなら、労働の喜びなどというものは、何と空しい、胡散臭い言葉であろうか。

怠け聖人をめざす鳥子にとってさしあたっての問題は、口うるさい世間様との縁を切れずにいることである。この状況に対して行き詰まりを感じてはいる。

鳥子の行き詰まり感を解消するのは意外にも古本屋への就職という決断である。鳥子は自分を雇おうと企む橘(古本屋の倅)の狐に似た容貌に、自分が化かされているのではなかろうかという疑念を抱く。しかし、橘の勧誘は、熱心に見えて、実は熱心さを装った退屈しのぎなのであろうと、鳥子は察する。退屈しのぎでしか熱心になれない、孤独な人間なのであるという点で鳥子は橘に共感を覚える。そして孤独に向き合いながら世を過ごす術として、生活ごっこ、古本屋ごっこをしようと考えるのである。

この世で自分が孤独と向き合っていること自体、さびしい獣(狐)の見ている夢の中での出来事なのではなかろうかと思い至る。そしてさびしい獣が孤独と向き合う耐性を身に付けるために自分が存在しているのであろうと考える。

いつか寂しい獣が目覚め、そして、涙を拭いて歩き始めるのを、鳥子は支援するものでありたい、と思ったのである。

あえて、ここまで「ニート」という言葉を使わなかったが、鳥子はニートである。ニートたちが自分たちを肯定する言説を求めるのであれば、まずはこの本を読むことをお勧めする。もちろん、ニート以外の孤独と向き合っている人もOK。

狐寝入夢虜狐寝入夢虜
十文字 実香

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2008.02.01

中国ギョーザ

さて先日取り上げた中国の農薬入り餃子騒動が今もなお続いているが、やはり、わが宇部市でも大きな話題である:「中国製冷凍ギョーザと他メーカー関連商品、店頭から姿消す」(宇部日報1月31日)。相談窓口まで設置されてしまった:「中国製冷凍ギョーザ中毒問題、県が相談窓口設置」(宇部日報2月1日)。

こんな有様では、高くても「国産」ですな。

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