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2008.02.09

20歳。天才作家デビュー!

毎月、光文社古典新訳文庫を一冊買っては読書しているのだが、昨日この本を読み終えた。

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)
ラディゲ 中条 省平

光文社 2008-01-10
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『車輪の下で』の記事と同じようなことを書くが、『肉体の悪魔』は今でこそ古典扱いだが、1923年当時は20歳の新星(しかもこの歳で命を落とす)が書いた恋愛心理小説だったのである。若いのにこんなに老成しているなんて!と驚くほどの透徹した文章。

舞台は第1次世界大戦中のパリ近郊。15歳の少年が、婚約者のいる19歳の女性、マルトに出会い、恋に落ち、妊娠させ、その人生をむちゃくちゃにするという話である。あらすじはスキャンダラスだが、珍しいものではない。重要なのは、ときおりユーモアすら交えられた、主人公の冷めた独白である。冒頭の一文を見れば、ただ事ではないことがすぐわかる。

僕はさまざまな非難を受けることになるだろう。でも、どうすればいい?戦争の始まる何か月か前に十二歳だったことが、僕の落ち度だとでもいうのだろうか?(p. 6)

次の引用文を見て欲しい。まるで恋愛のベテランのような言葉の数々。

精神的な類似は身体にまで及ぶことがある。目つきに、歩き方。(中略)遅かれ早かれ、身ぶりひとつ、声の抑揚ひとつで、どんなに用心していても恋人同士だと分かってしまう日がやって来る。(p. 134)

すべての愛には、青春期と成熟期と老年期がある。僕はすでに、なにか技巧の助けを借りなければ愛に満足できない最後の段階に来てしまっていたのだろうか(pp. 124 - 125)。

真剣な話ばかりかと思えば、こっけいな話もある。主人公はマルトの部屋で愛を重ねるのだが、マルトの部屋の真下にはマラン夫妻という夫婦が住んでおり、ある日、仲間を読んでパーティーを開催しようとする。主人公は人づてにそのパーティーの目的を知った。

マラン夫妻の余興の正体を知ったときの僕たちのびっくり仰天ぶりを想像してほしい。夕方ごろから僕たちの寝室の真下に陣取って、僕たちの愛の行為を盗み聴きしようというのだから。(p. 119)

主人公はもちろん、マラン夫妻のたくらみを逆手に取り、夫妻のパーティーの最中は音ひとつ立てずに過ごす。そして、

僕は意地悪く、マラン夫妻がお仲間に聞かせてやりたかったものを、仲間が帰ってから夫妻だけに聞かせてやった。(p. 120)

小説の終わり近くに書かれた次の一節は印象に強く残る。

死期の近づいただらしない人間は、そのことに気づいたわけでもないのに、突然、身辺整理を始めるものだ。生活が一変する。書類を仕分けし、早寝早起きし、悪臭を断つ。まわりの人びとはそれを喜ぶ。それだけに、突然の死はなんとも理不尽なものに思われる。これから幸せに生きようとしていたのに。(p. 201)

訳者の解説によれば、『肉体の悪魔』出版後、20歳で死んだラディゲの最後はまさしくこのとおりだったとジャン・コクトーが証言してるという。まるでラディゲの透徹した文章は自分の最後まで描き出していたかのようである。

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