研究開発従事者の性質
研究開発関係者の性質を明らかにし、それをもとに、創造性の強化と実社会への貢献に結びつける仕組みを考えることは小生の研究テーマのひとつである。
三崎秀央『研究開発従事者のマネジメント』(中央経済社)は、経営学の本でありながら、戦略、組織、プロセス(経営者にとっては有意義なのだろうが、研究開発従事者出身の小生としては美談や枠組みだけの話は面白くない)よりも研究者個人に主眼を置いた研究結果が記述されており、小生にとっても有益な本だった。
この本ではローカル志向とコスモポリタン志向という研究開発従事者が持つ2つの性質が述べられている。これらはもともとはGouldner(Cosmopolitans and locals, Administrative Science Quarterly, 2, (1957) pp. 281 - 306, (1958) pp. 444 - 480)が唱えた概念である:
- ローカル志向: ローカル志向というのは研究開発従事者が所属している組織を重視することで、本書では所属する企業を重視すること(企業に対するロイヤルティ)である。
- コスモポリタン志向: コスモポリタン志向とは、研究開発従事者が所属している職業団体を重視することで、本書では学協会を重視すること(学協会に対するロイヤルティ)である。
本書では、程度の差はあれ、研究開発従事者はこの2つの志向を持っている(二重のロイヤルティ)ことを因子分析によって示し、これらの性質が研究開発従事者の行動にどのように作用するのかを明らかにしようとしている。
小生自身もローカル志向とコスモポリタン志向という2つの志向を持っていることを自覚しているし、周りの研究者を見ていてもそれがあることが理解できる。たとえば、企業の研究者は企業での昇進を望むとともに、学会で評価されることを望んでいる。これは大学でも同じことで、大学教員の多くは大学内での地位確立とともに学会の委員就任の両方を望んでいる。ただし、どちらの志向が強いのかあるいは両方とも同時に強い/弱いのかということについては研究開発従事者ごとに異なる。
さて、この本を読んで思った疑問としては、研究開発者がロイヤルティを示す対象は所属企業と学協会の2つだけなのだろうかということ。ロイヤルティの対象としては所属企業全体とともに所属部門、学協会とともに研究開発従事者の出身研究室(大学)なども挙げられるのではないかと思う。二重どころではない、多重のロイヤルティというものがあるのではないだろうか?
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