南方熊楠の品格
今月の「ユリイカ」の特集は「南方熊楠(みなかたくまぐす)」。一般に、博物学者、粘菌学者として知られている人物である。
ユリイカ 2008年1月号 特集=南方熊楠 | |
青土社 2007-12 売り上げランキング : 13578 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
さもこの人のことをよく知っているかのように語る小生だが、この人が書いた本を読んだのは一回だけ。これ:
南方熊楠文集 1 (1) | |
南方 熊楠 岩村 忍 平凡社 1979-04 売り上げランキング : 625489 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
この本、今、売っているんだかいないんだか知らないが。
そして、熊楠の生涯については、水木しげるが書いたこの漫画を読んだ程度である(表紙の写真が無くて残念):
猫楠―南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア) | |
水木 しげる おすすめ平均 水木ワールドに棲む熊楠 奔放に生きる 幸福であったかどうかは、棺桶に足を突っ込むまでわからない 怪人(南方)×怪人(水木)=本書 マンガ表現と史実が融合した、すばらしい伝記 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
語学堪能、博覧強記、家庭は持ったものの、生涯定職に就かず、市井の(和歌山県田辺の)研究者として生きた人として知られる。
酒豪でエキセントリックな行動が多かったため(ほとんど裸の状態で生活していたり、気に入らない奴にはゲロを浴びせる等)、変人扱いされているが、その一方で海外では"Nature"や"Notes & Queries"などの英文誌に論文を寄せ、国内では粘菌などの研究で実績を上げ、また柳田國男らと交流しながら民俗学の形成に貢献するなど、アカデミズムに大きな足跡を残している。また、「神社合祀令」による、いわゆる「鎮守の森」の伐採に反対する運動を展開するなど、自然保護運動の先駆けとしても知られている。
さて、「ユリイカ」の南方熊楠特集号で面白かったのは、奥西峻介「掻巻から覘く 柳田国男の訪問」と礫川全次「南方熊楠の魅力について」である。いずれのエッセイも熊楠と柳田国男の対比によって熊楠の品格と度量を浮かび上がらせている。
上述したように、熊楠はエキセントリックな行動で知られているのだが、これらのエッセイを見る限り、熊楠はビクトリア朝の素養を身につけた品格のある人物であるのに対して、柳田は粗野で狭量な人物であるように感じられる。
熊楠の品格と度量に関しては、ちゃんと「ユリイカ」を読んでもらう事にして、柳田国男のダメダメな部分についてちょっとだけ触れよう
- 1911年3月19日、熊楠が自分と同じ研究(山男についての研究)を進めていると知り、早く本を出版したいから資料(材料)のみ提供してくれ、と虫のいい手紙を送る
- 1913年12月30日、初対面にもかかわらず、いきなり熊楠を訪ねた
- 1926年5月22日、中山太郎が編集した論文集『南方随筆』の跋文(あとがき)に、熊楠と自分にとって不名誉になる箇所があるとして、熊楠を煽る
こうした柳田の問題行動に対して、熊楠はいずれの場合も「大人の対応」をしている。熊楠との対比によって、民俗学の巨人である柳田がお猪口のごとき人物のように見えるから面白い。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 紀蔚然『台北プライベートアイ』を読む(2024.09.20)
- 『ワープする宇宙』|松岡正剛に導かれて読んだ本(2024.08.23)
- Azureの勉強をする本(2024.07.11)
- 『<学知史>から近現代を問い直す』所収の「オカルト史研究」を読む(2024.05.23)
- トマス・リード『人間の知的能力に関する試論』を読む(2024.05.22)
コメント