パースの「アブダクション」について
読書の秋というか、最近は「科学哲学」とか「エピステモロジー」に関する難しい本や論文を抵抗無く読んでいる。いったい何事だろう?
今日読んだのはパースというアメリカの科学哲学者が提唱した「アブダプション(仮説形成)」という考え方を検討しなおした論文
Harry G. Frankfurt, Peirce's Notion of Abduction, The Journal of Philosophy, Vol.55, No.14 (Jul. 3, 1958), pp.593-597
である。科学の論理として「演繹 (deduction)」と「帰納 (induction)」の二つがあることが知られているが、パースは「アブダクション(=仮説形成や推論と言い換えられることが多い)」を第三の論理として取り上げている。アブダクションの形式は以下の通りである:
1. The surprising fact C, is observed
2. But if A were true, C would be a matter of course
3. Hence, there is reason to suspect that A is true
1.驚くべき事実Cが観測された
2.しかし、Aが正しいとすれば、Cは当然のことである
3.ということで、Aが正しいと思う理由がある
フランクフルトの解釈にもとづいて補足すれば、次のように直すことができるだろう:
1. The surprising fact C, is observed
2. But if the proposition A, which accounts for C, were true, C would be a matter of course
3. Hence, we accept the proposition A as an hypothesis
1.驚くべき事実Cが観測された (これは同じ)
2.しかし、Cについて説明する主張Aが正しいならば、Cは当然のことである
3.ということで、主張Aは仮説Aとして受け入れてよい
アブダクションによって仮説として認められた主張Aの正しさは、こののち、帰納法によって検討されるわけである。
フランクフルトの解釈の要約は以下のファイル(パワポ)にまとめておいたので、興味ある人は見てください:
「PeircesNotionofAbduction.pdf」をダウンロード
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コメント
Peirce's Notion of Abduction.pdfは分りやすいですね。参考にさせて頂きます。今仕事で未来の生活トレンド予測というのをやってますが、2050年に二酸化炭素の排出量を90%削減しようとすると、大胆なアブダクション的発想が必要となります。
投稿: 渡辺俊生 | 2008.12.15 14:13
渡辺俊生様
パースの資料がお役に立てば何よりのことと思います。
2050年までにCO2を90%削減しようとすれば、産業部門はもちろんのことですが、運輸、民生部門の削減の方が重要な課題となるでしょう。
運輸部門はハイブリッド車(ディーゼル+電気)と公共交通機関の普及が一つの鍵であろうと思います。さらに新たなアイディアが出ればよいのですが。
水素燃料車はエコといわれていますが、化石燃料由来の水素を使う限り、むしろ環境への負担が増します。また金属の水素脆性の問題から水素は長期保管ができないのが致命的です。
民生部門はオフィス部門と住宅部門に分かれます。オフィス部門は企業のコスト削減努力に比例して省エネ・CO2低減が進むでしょう。しかし、住宅部門は消費者の意識改革なしには省エネ・CO2低減が進まず、最も解決の難しい最後の難関となると思います。
投稿: fukunan | 2008.12.16 11:19