翻訳開発事業団
「開発事業団」だけど、有限会社なんですよ、皆さん!
仕事柄、英文添削を専門の企業にお願いすることがある。大体は大手(?)のクディラ・アンド・アソシエイツを利用しているが、他の業者もDMを送ってきたりするので、任せてみようかなーと検討することがある。数あるDMの中で物凄く目をひきつけたのが、「有限会社 翻訳開発事業団」のものである。
文章の見出し(?)にまずびっくりする:
◎英米人より上の英文を書き続けて幾久し。
◎既に東京大学を含む全国の大学から、産総研をはじめとする各地の研究所から相次ぐご注文。
続いて本文:
どんなつもりでthe authorがこの原稿文を書いたかを洞察して必ずしも字句に捕らわれることなくその日本文に最もふさわしいEnglish equivalent(s)を書く、という要領でやれば英訳はできますが翻訳が自由自在になるMagic Wayというのは果たして存在するか、以下に考察して参りましょう。・・・<後略>
DMだというのに随筆になっているのが再びびっくりである。この後は英語に関する薀蓄が続く。見出しを並べてみよう:
「名詞+名詞」の便利さ
「人」を表に出さない
可算、不可算の問題
Legal shall
このように商売が前面に全く出てこないDMの文面は初めてである。英語に関するレクチャーが終わって、ようやく翻訳の方針が述べられる:
事業団翻訳基準
凡そ納入に当っては瑕疵があってはならないと法に定められております。処で翻訳を進めるに際して送られてきた日本語原稿を翻訳家が読んで、百パーセント分り切ることはふつうあり得ません。この部分は何をおっしゃっているのか全く暖昧だ、二通りの意味に取れるというような悩みは常のことですし、日本文を読んだだけでは名詞を単数に書けばよいのか、複数にすべきか全く見当のつけようがないことも多々あります。「結合」とあってもbonding,connection,joining,,linkageのどれなのか、というような避けて通れない問題も毎回のように生じます。
方針を述べているようで、実際には翻訳に当たっての苦悩が述べられている。このあと、専門用語の難しさについて語った後、親切なカスタマーの思い出を語っている:
いつか商船大学の教授が英訳注文を出して下さいました。「海事用語、船舶用語には、特殊なものが多く、やたらな語を使われては困る」という趣旨からだったのでしょう、和文原稿に大半の用語を書き込んでおいて下さったのです。とても助かって翻訳作業は極めて迅速に進み、早期納入が可能となりました。どのクライエントもこのように極度に特殊な用語は事前に提示して下さるのなら、万事がとても好都合であるようです。
で、最初の疑問、「翻訳が自由自在になるMagic Wayというのは果たして存在するか?」について、以下のような回答を述べている:
こんな次第ですので、些かの瑕疵は含まれているかもしれないという状態のもの、即ちドラフトを送付した後、クライエントと翻訳家が種々協議して修正を行ない、完全訳に近づけていくというプロセスを辿ることになります。決して容易な仕事ではなく、翻訳自由自在のMagic Wayというのは見つからないようであります。
ここまで翻訳という仕事のつらさを吐露したDMは見たことがない。この会社の誠実さを感じざるをえない。
興味のある人は実際にホームページを見てください。「有限会社 翻訳開発事業団」
あと、4回しか書いていないけど、この会社の代表によるブログもある:「西川亨の翻訳人生 英米人より上の英文を書こうと願い、悲願達成か」
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