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2006.06.03

Greg Egan "DIASPORA"

洋書版の『ディアスポラ』が届いた。


山岸真の訳による、ハヤカワ文庫版はすでに5月の中旬に読み終えているので、この原書版は要所要所を斜め読みするつもり。


ディアスポラは独立性の高い、中篇(短編?)小説の連続体である。


この小説(群)の舞台は2975年以降の地球である。多くの人々は仮想現実世界の市民(コンピュータの中の存在)として生きている。彼らは肉体の代わりにアイコン(最近のインターネット社会ではアバターと呼ばれるもの)を持っている。彼らの世界はポリスと呼ばれ、地中に注意深く埋められたコンピュータの中にある。


この時代、人類の全てが仮想現実化しているわけではなく、一部は肉体人、一部はグレイズナーというロボットとして生きている。ポリス市民、肉体人、グレイズナーは互いに互いの領分を侵さないようにして平和に生活している。このような舞台装置のもと、30世紀から超未来まで果てしなく続く物語が始まる。


第一部 主人公ヤチマがコニシ・ポリスで誕生する。ヤチマはやがて数学者となり、「真理鉱山」で、様々な数学的真理の発掘を行うようになる。また、仲間であるイノシロウと共にグレイズナーの体に乗り込み、肉体人の町、アトランタを訪問したりする。


第二部 グレイズナーの一員、カーパルが月面でトカゲ座の「ガンマ線バースト」に気付く。この天体現象が地球に及ぶと、地表の肉体人は全滅してしまう。この情報を得たヤチマとイノシロウは肉体人をポリスに移住させようと考え(つまり、肉体人をデジタル化しようと考え)、再びグレイズナー・ボディに乗り込んで地表に向かう。しかし、この案は肉体人に拒絶される。ついにガンマ線バーストによって地表が焼かれる。この事件を「肉滅」と呼ぶ。この事件の後、ヤチマはコニシ・ポリスからカーター-ツィマーマン(C-Z)ポリスに移住する。


第三部 ワームホールを利用した長距離超光速移動(ワープ)実験とその失敗に関する話。実験装置の「長炉」は線形粒子加速器だが、大きさがなんと、1400億キロ(冥王星の軌道の十倍以上)もある。ちなみにこの実験にかかった期間は準備期間もあわせて800年以上。ワームホールによるワープ実験失敗により、市民のクローンを乗せた超小型宇宙船によって地道に恒星間探査を行うことになる。この計画をディアスポラとよぶ。


第四部 カーター-ツィマーマン(C-Z)ポリスによるディアスポラ実施中。ヴェガ星系惑星オルフェウスで「ワンの絨毯」という「生命」もどきを発見。「ワンの絨毯」は海藻みたいに成長する単一分子で、それ自体すごい。しかし、もっとすごいのは、「ワンの絨毯」は一種のコンピュータで、そのコンピュータの中に「イカ」と呼ばれる仮想生命体が生存しているということ。つまり、オルフェウスで、カーター-ツィマーマン・ポリス市民たちは自分たちと同じような存在を発見したということになる。


第五部 ヴォルテール星系惑星スウィフトで、変な中性子を発見。どうもこの星にいた、ある文明(知性的存在)が人工的につくり出したものらしい。しかもこの中性子(長い中性子)には大量のデータが埋め込まれていた。それによると、例のトカゲ座ガンマ線バーストをしのぐ、「コア・バースト(ニュートリノ・バースト)」がやってくることが判明。このコア・バーストでは半径5万光年ぐらいの範囲で、物質が壊されてしまう。この中性子を作った存在、通称「トランスミューター」はコア・バーストから逃れるべく、別の(上位)宇宙に脱出したと考えられている。ヤチマたちはトランスミューターを追って上位宇宙に行くことにした。


第六部 上位宇宙は5次元+1次元(時間)の宇宙だった。その宇宙の惑星ポアンカレで、ヤチマたちは、ヤドカリとあだ名される知性と出会う。ヤドカリたちによると、トランスミューターたちはヤドカリたちに出会った後、さらに上位の宇宙に移動したのだと言う。ヤチマたちの追跡は続く。


第七部 また別の宇宙。ここでは「虫」と呼ばれる、他の宇宙から来た種族の作ったプログラムというか「対応係」に出会う。「虫」が「ガンマ線バースト」や「コア・バースト」のような大惨事を引き起こす物理的メカニズムについて、あっさりとした説明してくれたため、ヤチマやカーパルら一行が驚いたりガッカリしたりする。


第八部 いろいろな宇宙から来た種族と出会い、文明の同化などが行われている時代。ヤチマとパオロはさらにトランスミューターの追跡を行うことにする。すなわち、どんどん上位の宇宙へと旅を続ける。その結果、267兆9041億7638万3054個目の宇宙にたどり着く。パオロは全てをやりつくしてしまったとして停止(瞑目)する。ヤチマはコニシ・ポリスから持ってきた「真理鉱山」を発掘する作業(数学への没頭)を再開する。


まあなんというか、壮大な話。私の場合は、光瀬龍などを思い出してしまう。しかし、この小説は叙情的な要素も含むが、最新科学を踏まえたハードSFとしての性質も非常に強い。ワンの絨毯のような高分子コンピュータの中に生きる仮想生命体、上位宇宙への旅、五次元世界での方向感覚といった発想もすごいし、ガンマ線バーストをしのぐ、コア・バーストという発想もすごい。


旅の果ての状況も非常に考えさせられる。永遠の命を手に入れて、ほとんどあらゆることをやりつくしてしまったとき、知性(人類でもいいけど)はどういう行動を取るのだろうか?パオロのように瞑目するのか。ヤチマのように無限に続けられる作業に没頭するのだろうか?究極の問題を突きつけられた感じがする。


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参考になるサイトは以下のとおり。

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